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夕暮れが、部屋の隅に沈んでいく。
テレビの音も消え、風のない空気が、皮膚に張りついていた。
兄たちは、ひとりずつ帰ってきては、何かに苛立っていた。
陽翔は、無言だった。
仕事の失敗を引きずっているのか、玄関のドアを乱暴に閉めた音だけが響いた。
悠翔が出迎えようとした瞬間、その沈黙が、爆ぜる。
「いちいち構うな」
その言葉が終わる前に、肩を突き飛ばされた。
何も壊れなかった。ただ、胸の奥で何かが軋んだ。
次に帰ってきた蓮翔は、意味もなく笑っていた。
笑いながら、冷蔵庫を開け、缶をひとつ掴む。
「おまえ、昼間何してた?」
何気ない声。
けれどその目の奥には、焦げたような疲れと苛立ちが滲んでいた。
悠翔が答えようとすると、その声を遮るように、机の上のものが弾けた。
音が静寂を裂いた。
蒼翔は、夜になってから戻った。
玄関の灯りをつけたまま、靴を乱暴に脱ぐ。
「……またお前、陽翔ら怒らせたろ」
低く吐くように言いながら、近づいてきた。
その指先が腕を掴むとき、力の強さに言葉が消える。
やめてと言えなかった。
言ったところで、もっと壊れる気がした。
――何も悪くないのに、謝る癖だけが残った。
「ごめん」
その言葉を吐いた瞬間、三人の表情が一瞬だけ歪んだ。
誰も満たされていないのに、誰も止めようとしなかった。
夜が深くなる。
家の中には、物音一つしない。
悠翔は、膝を抱えたまま、呼吸の音だけを数えていた。
静寂の中に、自分の心臓の鼓動だけが、やけに鮮明だった。