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次の週、岳大は山岳出版の編集長の前田とアシスタントの朝倉亜由美と三人で都内のカフェにいた。

立山で撮った写真をパソコンで見ながら、どの写真を雑誌に掲載するかを話し合っていた。


「今回はどれも凄いのが撮れたねぇ。いやー悩んじゃうなー」


前田は満面の笑みで言うと、朝倉も言った。


「本当ですね。凄いお写真ばかりで圧倒されます。ページ数に限りがあるのがもどかしいわ」

「ありがとうございます。まあ僕としては最初に言っていたこの五枚でいいかなと」


すると前田も岳大の意見に同意した。


「そうだね、これで行きましょう。うん、やっぱりこれがベストだ」


そこで雑誌へ掲載する写真五点が決まった。

打ち合わせが終わった所で前田が言った。


「佐伯君、この前話していた『peak hant5』との契約更新の件なんだけれどね…」


前田がそう言いかけたところで、岳大が言った。


「その件ですが、本当にありがたいお話なのですが実は『peak hant5』を今度大々的にリニューアルする事にしたんです。で

すから契約更新の件はすみません、今回はなしという事で……」


岳大は前田に向かって深く頭を下げた。

すると前田はとても残念そうな顔をしたが、岳大が契約更新をしない理由をほぼ察しているようだった。

そこでこんな事を言う。


「雑誌絡みだとどうしても売り上げ第一主義になってしまうので本当に申し訳ない事をしたと思っているよ。まあ元々は佐伯君

が立ち上げたブランドですから正直僕たちはもうそれ以上は何も言えないんですよ。いや、逆に今まで助けていただいて感謝し

ていますよ。佐伯君のおかげで売り上げ部数が落ちていた雑誌がすっかり勢いを盛り返しましたから。本当にありがとう。僕と

してはここで提携が切れてしまうのはとても残念ですが、まあ今後もお互い違う道で頑張りましょう」


前田はそう言うと岳大に握手を求めて来たので、岳大は前田の手を力強く握る。

そして二人は微笑んだ。


「雑誌掲載の写真の方は、今後も引き続き頼みますよ」


前田は笑顔で言うと、岳大の肩をポンと叩いてからドアへ向かって歩き始めた。

前田の後ろ姿へ岳大は再度お辞儀をした。

すると、アシスタントの朝倉が帰り際に言った。


「佐伯さん、今度一緒にご飯でもいかがですか? 私、山についてもっと色々お話が聞きたいです」


岳大はその言葉に驚く。

朝倉とは常に仕事仲間として接して来た。朝倉は仕事をテキパキこなすとても優秀な編集者だった。

その朝倉がいきなり岳大を誘って来たので、正直かなり驚いていた。

しかし岳大はこう返事をした。


「今はちょっと多忙を極めておりますので、申し訳ありませんが……」


その言葉に朝倉は一瞬がっかりした様子だったが、


「あ、そうでしたね。確か鉄道会社のポスターの件もありましたよね。ほんと、次から次へと大きな仕事ばかり凄いわ! じゃ

あお時間が出来たらで構いませんので、お待ちしています」


朝倉はそう笑顔でそう言い残すと、一礼をしてから前田の後を追って行った。


朝倉の後ろ姿を見送った岳大は、再び椅子に腰を下ろした。

そしてフーッとため息をついた後、無意識にパソコンにある画像ファイルをクリックする。


岳大がクリックした写真は、優羽と流星のあの笑顔の写真だった。


岳大は画面に映った優羽と流星の写真を愛おしそうに見つめていた。

この二人と過ごした日々はつい先週の事なのに、なぜか遠い昔のような気がしていた。

岳大が山荘での出来事を思い出していると、携帯にメッセージが届いた。


【打ち合わせ終わりましたか?】


メッセージはアシスタントの井上からだった。


【うん、今終わった。まだ少し時間があるから、井上君も一杯コーヒーを飲んで行ったら?】


そう返信すると、数分後に井上が店内に入って来た。

カウンターでコーヒーを買った井上は、岳大の席までやって来る。


「お疲れ様です。雑誌掲載の写真決まりましたか?」

「うん。やっぱり最初に言っていた五枚に決定したよ。あと、ブランド提携の件は予定通り断った」

「断って大丈夫でしたか? 前田さん、なんて?」

「売り上げ第一主義になっちゃって申し訳なかったねって謝られたよ。でも雑誌掲載の写真は引き続きよろしくと言ってくれた

ので、写真の仕事は今後も貰えそうだね」


それを聞いた井上は、少しホッとしている様子だった。


「これから『peak hant5』を本格的にリニューアルするつもりだから、井上君も頼んだよ。あ、それともう一人スタッフを迎

える事にしたよ。ほとんどリモートでの参加だと思うけれど、山神山荘にいた森村さんが昔アパレルにいたらしいんだ。彼女も

スタッフの一員として参加してもらう事にしたのでよろしく」


岳大の言葉に井上がびっくりしている。


「えっ? あのフロントにいた彼女ですよね? へぇ、彼女アパレルにいたんですね」

「うん。結婚式の時の花嫁さんのプロデュース見事だったろう? だから思わずスカウトしちゃったよ」

「なるほど。確かにあの時のメイクや衣装は素晴らしかったですからね」


その時井上は、立山での夜岳大がメッセージをやり取りしていた相手はきっと優羽だったのだろうと確信した。

長年岳大の元で働いてきた井上は、今まで見た事がない岳大の新たな面を見て少し驚いている。

優羽に出会ってからの岳大は何かが確実に変化している。もちろん良い意味での変化だ。

そんな岳大の変化を井上は微笑ましく思った。


そんな井上の様子には全く気付かずに岳大が言った。


「僕の大学時代の後輩で投資家として成功している奴がいるんだけれど、その友人が共同出資してもいいと言ってくれているん

だ。だから直営店を出そうかと思ってる」

「えっ? 直営店ですか? それはいきなり凄い話だなぁ! いやー、実店舗を心待ちにしているファンはかなりいますから、

それはきっと評判になりますね」

「うん。予定ではもっと早く実現する予定だったんだけれど色々忙しくて先延ばしになっちゃったな。でも漸く本格的に取り組

めそうだ。それはそうと、もうすぐ鉄道会社との打ち合わせの時間かな? そろそろ出ようか?」

「はい。ちょっと待ってください」


井上は慌てて飲みかけのコーヒーを飲み干した。その間に岳大はノートパソコンを片付ける。

準備が出来ると二人はカフェを後にした。

水面に落ちた星屑

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