テラーノベル
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翌日奈緒は、いつものように出社した。
昨夜は省吾がマンションの前まで送ってくれた。
帰り道、すっかり眠り込んでしまった奈緒はマンションの前で省吾に起こされる。
部屋に戻った奈緒は、シャワーを浴びるとすぐにベッドへ入った。
昨日はとても楽しい一日だった。
視察の後、お守りを手に入れ省吾の姉一家と共に楽しい時間を過ごす事が出来た。
睡眠も充分取れたので、今朝は頭がスッキリしている。こんなにぐっすり眠れたのは久しぶりだった。
秘書室へ入る前に、奈緒は左手の薬指の指輪をじっと見つめる。そして右手で軽く指輪に触れた。
(よしっ、今日も頑張ろうっと)
奈緒は気合を入れて秘書室のドアを開けた。するとさおりと恵子が既に来ていた。
二人は奈緒の姿を見ると、待ってましたとばかりに言う。
「奈緒ちゃん、昨日はどうだったー?」
「帰りはどこへ行ったのー? 早く話を聞かせてよーーー」
「おはようございます。と、とりあえず荷物置いてきますね」
奈緒は慌ててロッカールームへ駆け込むと、バッグをロッカーに入れる。
そして一度深呼吸をしてからオフィスへ戻った。
その時目ざとく恵子が奈緒の指輪を見つける。
「あーっ、奈緒ちゃんが指輪をはめてるっ! それも左手の薬指に!」
恵子の大声にさおりが慌てて駆け寄る。
「わっ、本当っ! 何よこれっ! どういう事? 説明しなさい奈緒ちゃんっ!」
「えっと……つまりこれは『小道具』なんです」
「「小道具?」」
「はい。『偽装恋人』の小道具に買っていただきました」
そこでさおりが叫んだ。
「はぁーーーっ? 普通『小道具』でこんな高価な指輪を買うーーー? だってこれルビーでしょう?」
「ですよねぇ、凄く高そう! つまりこれはガチの指輪って事?」
「え? 違います違います」
奈緒は顔の前で手をブンブンと振りながら言った。
「いやぁ~これはガチだと思うなぁ。お値段結構したんじゃない?」
「はい……結構しました……」
「だったら小道具なんかじゃないよー。正真正銘、奈緒ちゃんへのプレゼントだと思うけどなぁ?」
「うんうん、私もそう思う」
そこで奈緒は急に不安になる。
小道具だと思い込んでいた指輪を二人がガチだと言い張るからだ。
(そんな訳ないと思うけど……?)
奈緒は『小道具説』に急に自信がなくなる。
「これは前にボスから聞いた話なんだけど~、省吾……いや、深山さんってさぁ、これまで付き合った女には絶対にジュエリーをプレゼントしなかったんだって~」
「あ、それ私もインタビュー記事かなんかで読みました。有名な話ですよね? なんであげないかっていうと、女性に期待を持たせない為なんですって。ほら、指輪とかあげちゃうと女の方は結婚を意識し出すでしょう? 深山さんって結構ワルよねぇ……」
「うん、男のくせに結構あざといっ!!! でも~奈緒ちゃんに指輪をプレゼントしたって事はどういう事~?」
さおりは興奮しながら続けた。
「あの子ってさぁ、学生時代もそうだったんだよ。バレンタインに山ほどチョコもらってもさぁ、ホワイトデーのお返しは、母親に買って来てもらったハンカチかなんかを返しちゃうの。みんな同じ物! もう馬鹿でしょう? 母親が買ったハンカチもらったってさぁ、嬉しい? ハァッ、ったくほんとに馬鹿だよー」
それを聞いた奈緒と恵子の視線が自分に突き刺さっている事に気付いたさおりは、急にハッとした。
「「さおりさんっ、何でそんな事知ってるの?」」
さおりは「しまった!」という顔をしてから、諦めたように言った。
「もう隠しておくの疲れたから言っちゃえ! いい? 今から私が言う事は三人だけの秘密よ! 誓える?」
「「誓いますっ!」」
奈緒と恵子は唾をゴクリと飲み込むと、さおりを食い入るように見つめた。
「あのねぇ、私と深山さんは従兄弟なの」
「「ハァッ?」」
「つまり省吾と私は親戚って事。あっ、でも言っておくけど私はコネ入社じゃないからね。採用試験は省吾に内緒でこっそり受けたんだから」
「えーっ、びっくり~! まさかそんな事がっ! 全然気づかなかったー」
「私もです」
「そりゃそうよ。バレないように必死に隠してたんだもの」
「すっかり騙された~~~」
「ごめんごめん」
さおりは苦笑いをしながら恵子の頭を撫でる。
「でもね、そんな事より奈緒ちゃんの話に戻ろうよ。こんな高そうなルビーの指輪を『小道具』の為だけに贈ると思う?」
「そうですよね。婚約指輪にしてもいいくらいのグレードですもん」
そこで奈緒は、指輪は省吾の姉夫婦が経営する店で買ってもらった事を伝えた。
「美樹ちゃんに会ったんだ? 元気だった? 私はしばらく会ってないんだよねー」
「お元気そうでしたよ。素敵なご家族ですね」
「うん、あの一家は凄く仲良しなの。それに省吾も美樹ちゃんと兄弟仲がいいでしょう?」
「はい、とっても」
「あ、もしかして自宅にも行った?」
「はい、お邪魔しました」
「あっ、じゃあ賢一さんのお料理食べた?」
「はい。プロ級のお味でびっくりでした」
「でしょでしょ? あの人の料理の腕前すごいんだから~」
「賢一さんって誰ですか?」
「省吾のお姉さんの旦那さんよ」
「へぇ~その方がお料理上手なんですかー?」
「レストランが開けそうなくらい凄いです」
「それにしても省吾はぬかりないわね。奈緒ちゃんの指にさっさと指輪をはめて、姉一家にも紹介する……うーん素早い、実にお見事!」
「華麗なるマーキングですねぇ……」
「アイツ、意外と独占欲が強いのかもねー」
二人の会話を聞いて、奈緒が慌てて言った。
「ちょっと待ってください、私達お付き合いしている訳ではないので……」
奈緒は困ったように言ったが、その目はキラキラと輝いていた。
「今日の奈緒ちゃん、なんか今までと違わない?」
「違う―、なんか生き生きしているって感じ?」
「えっ? そんな事ありません……」
「ううん、なんか吹っ切れたって感じなのかな? それになんだか楽しそう」
「うんうん、すごくパワーがみなぎっているって感じ?」
「そうそう」
二人はニヤニヤしながら好き勝手に言っている。
「そうですか? 自分では何も感じないけど……」
「きっと指輪のせいかもよ? パワーストーンを身に着けたからパワーアップしたのかも?」
「あ、それはあるかもしれませんね。いいなぁー、私もパワーアップ出来る指輪が欲しいー」
「恵子ちゃんも彼氏に買ってもらえば?」
「無理です~、彼氏ケチだから、奈緒ちゃんみたいな豪華な指輪は絶対無理です」
「あー、あたしは自分で買おうかなー? 今度のボーナスでどーんと奮発しちゃう?」
「いいですね~~~。私も自分で買おうかなぁ?」
「お二人の誕生石は何ですか?」
「あたしはねー……」
そこで宝石談議が始まった。
つい夢中になって話していると、いつの間にか9時になっていた。
途端に三人は慌てる。
「あわわわ、もうこんな時間! コーヒーの準備っ!!!」
「ドリップ終わってるのですぐ用意出来まーす」
「急げ急げーーー」
三人はアタフタしながらも、笑顔を浮かべてそれぞれのボスの部屋へ向かった。
コメント
31件
華麗なるマーキング....✨💍✨ お守りの効果も、恋愛成就の効果も....⁉️ これからじわじわ効いてきそうですね💖🤭
そうです。ただの小道具ではないのです🫢
「華麗なるマーキング」‼️ 瑠璃マリ先生、ナイスワードですね~😆✨ 省吾さんの外堀埋めワクワクします🤭 次の手は?楽しみです🤗