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#王子
すっこ
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#主人公最強
杯雪乃
1,309
母の葬儀の写真には、
どこを見ても、
三田村彰がいた。
通夜。
告別式。
出棺。
火葬場。
そして、
どの写真でも、
母ではなく私を見ている。
「この人、母を見送りに来たんじゃない」
私は言った。
「私を見に来てた」
真壁刑事は、
葬儀社から提供された映像を最初から確認した。
母の通夜は、
午後六時からだった。
でも、
三田村が会館へ入ったのは、
午後二時十三分。
「四時間も前?」
「親族より早いですね」
私は午後三時過ぎに到着した。
父はいなかった。
母とは長く疎遠だった。
葬儀の準備は、
ほとんど葬儀社に任せていた。
だから、
その時間に誰が来ていたのかなんて知らない。
映像の中。
三田村は受付で何かを見せた。
スタッフが頭を下げる。
そのまま、
親族控室の方向へ歩いていく。
「普通、入れませんよね」
「確認します」
葬儀社の担当者を呼んでもらった。
五十代の男性だった。
映像を見るなり、
「ああ、この方」
と言った。
「覚えてるんですか」
「はい。故人のご親族だと思っていました」
「本人は何て?」
「お手伝いを頼まれている、と」
「誰に?」
担当者が首を傾げる。
「故人です」
私は息を止めた。
「母が?」
「はい」
「いつ?」
「葬儀の前日に電話がありました」
「母はもう死んでます」
担当者の顔が固まった。
「え?」
母が死亡確認されたのは、
そのさらに前。
「電話の記録、残ってますか」
会社の履歴を確認する。
確かにあった。
母の携帯番号。
葬儀前日。
午後四時十八分。
三分二十二秒。
「録音は?」
「通話品質確認のため残っている可能性があります」
探してもらう。
音声が見つかった。
再生。
『水城千佳です』
母の声だった。
また。
死んだあとに、
母の声。
『明日の葬儀について、一人お願いしている方がいます』
担当者。
『ご親族の方でしょうか』
『違います』
『では、ご友人?』
少し間。
『私の後始末をする人です』
背中が冷たくなった。
『三田村彰という男性です』
『承知しました』
『会館内を自由に動けるようにしてください』
『親族控室もですか』
『はい』
『喪主様には?』
母が答える。
『娘には言わないでください』
私は再生を止めた。
「これ、本当に母が電話したんですか」
「番号は本人のものです」
でも、
母はもう死んでいた。
誰かが録音した母の声を使った?
それとも。
「事前に予約した音声?」
真壁が訊く。
「可能性はあります」
母は、
自分の死を予想していた。
なら、
葬儀まで準備していてもおかしくない。
だけど、
気になる言葉。
私の後始末をする人。
「三田村さんは何をしてたんです」
担当者は首を振った。
「私は式の準備があって」
映像を追う。
午後二時二十一分。
三田村、
親族控室へ入る。
二時三十八分。
出てくる。
手には、
黒い鞄。
入るときには持っていなかった。
「控室に何が置いてあった?」
「故人様のお荷物が少し」
母のバッグ。
眼鏡。
ハンカチ。
葬儀社へ運ばれた私物。
「持ち出した?」
真壁が映像を止める。
三田村は鞄を開ける。
何かを入れている。
紙の束。
「拡大できますか」
ぼやけている。
ただ、
紙の縁だけは見えた。
黒い枠。
死亡通知に似ている。
「七枚?」
私は呟いた。
三田村は、
母の家に七枚を置いた可能性がある。
でもその前に、
葬儀会館から何かを持ち出している。
死亡通知は、
母の家に最初からあったのではなく、
一度ここへ運ばれていた?
映像は続く。
午後三時七分。
私が到着。
その三分前。
三田村は会館入口のベンチへ移動していた。
私が入る。
三田村が立つ。
目で追う。
私は気づいていない。
午後四時。
納棺。
親族控室。
私が一人で泣いている。
廊下の向こう。
三田村が立っている。
入ってはこない。
ただ、
見ている。
「気持ち悪い……」
私が呟くと、
父が言った。
「昔からそうだった」
「何が」
「三田村は、お前に近づかないよう千佳に言われてた」
母の手紙。
澪には近づかないでください。
あの子の前で、父親のような顔をしないで。
だから。
見ているだけだった?
午後六時。
通夜開始。
焼香する三田村。
その直後、
一人の女性が会場へ入った。
黒い服。
帽子。
マスク。
私は身を乗り出した。
「この人」
スーパーで由紀子に接触した女に似ている。
十五年前の、
名前を持たなかった少女。
「顔は」
映像では見えない。
女性は焼香しない。
最後列に座る。
そして、
三田村と目を合わせた。
通夜終了。
午後七時三十五分。
参列者が帰り始める。
三田村は女性の横を通る。
会話はない。
でも、
すれ違う瞬間。
小さな封筒を渡していた。
「知り合いだ」
真壁が言った。
「追えますか」
館外カメラ。
女性は裏口から出る。
三田村は十分後、
別の出口から。
二人は離れた場所で合流する。
駐車場。
音声はない。
でも、
三田村が女性へ何かを見せている。
紙。
女性が首を振る。
三田村が紙を破る。
その破片を、
女性が拾う。
「何の紙?」
映像では分からない。
次の日。
告別式。
三田村は朝八時からいる。
私より早い。
女性は来ていない。
三田村は、
ずっと私の後ろにいた。
出棺。
私は母の棺に花を入れる。
映像の端で、
三田村が泣いていた。
「泣いてる」
私は思わず言った。
初めて、
母を見ていた。
それまで一度も、
遺影を見ていなかった男が。
棺の蓋が閉まる瞬間だけ、
母を見て泣いている。
「母を憎んでたんじゃないの」
六人目。
母に人生を壊された一人。
それなのに。
三田村は、
声を出さず泣いていた。
火葬場。
午後一時二十分。
棺が炉へ入る。
私はその場から離れた。
三田村は残った。
炉の扉を、
ずっと見ている。
そして。
一人で呟いた。
火葬場の記録用カメラに、
微かに音声が残っていた。
真壁が音量を上げる。
『千佳』
三田村の声。
『これでいいんだな』
私は息を止めた。
『約束どおり』
雑音。
『七人を――』
聞こえない。
「もう一度」
音声処理。
『七人を、同じ場所に集める』
私は真壁を見る。
七人。
また、
同じ言葉。
三田村は続ける。
『復讐なんて、俺にはできない』
復讐。
「止めて」
私は言った。
巻き戻す。
再生。
間違いない。
復讐なんて、俺にはできない。
そのあと。
『でも、お前が残したものなら使う』
死亡通知。
母が作った仕組み。
『七人が揃えば』
雑音。
『澪も、自分が誰なのか分かる』
胸が強く打った。
三田村は、
私の出生を知っている。
やっぱり。
最後。
最も小さな声。
『ただし』
『七枚目だけは、俺が書く』
私は息を止めた。
七枚の死亡通知。
全部、
母が作ったのではない。
少なくとも、
最後の一枚は。
三田村が書いた。
「七枚目は誰?」
真壁は答えない。
まだ開かれていない、
最後の死亡通知。
私は母の家に残っている紙を思い出した。
一枚目。
高瀬。
二枚目。
榊原。
三枚目。
父。
四枚目。
由紀子。
その先は、
まだ確認していない。
「今すぐ母の家へ」
*
警察の保管下にある、
残りの死亡通知。
五枚目。
まだ封を切っていない。
六枚目。
七枚目。
私は、
七枚目だけを見る。
封筒の裏。
以前は気づかなかった。
小さな文字。
母の筆跡ではない。
最後に開けること。
「三田村の字かもしれません」
真壁が言った。
私は封筒へ手を伸ばした。
でも、
止められる。
「順番があります」
「人が死んでるんですよ」
「だからこそです」
私は手を引いた。
三田村が言った。
七人を、
同じ場所に集める。
それなら。
死亡通知の目的は、
一人ずつ殺すことではない。
母を苦しめた人間への、
死後の復讐でもない。
紙は、
人を動かすための道具。
恐怖で。
罪悪感で。
過去の秘密で。
そして最終的に、
七人全員を、
一か所へ連れてくるためのもの。
「真壁さん」
私は言った。
「私たち、最初から間違えてたんじゃないですか」
「何を?」
「死亡通知の目的」
死を予告する紙。
母を殺した七人への復讐。
そう思っていた。
違う。
母が十五年前に作ったときから、
本当の目的は別にあった。
私は七枚の封筒を見る。
「これ」
静かに言った。
「復讐のために作られたんじゃない」
コメント
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うわああああ第47話ヤバすぎた😭💦 母の葬儀に三田村がずっといたってだけでゾッとするのに、死んだはずの母からの電話予約って…「後始末をする人」って言葉が沁みるよ…。しかも七枚目だけ三田村が書いたっていうラスト、澪の「復讐のためじゃない」って気づきが切なくてエモかった!最後の封筒「最後に開けること」って…もう次の話が気になりすぎて耐えられないんだけど!?!?📖🔥