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#王子
すっこ
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#主人公最強
杯雪乃
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「これ、復讐のために作られたんじゃない」
七枚の死亡通知を前に、
私は言った。
高瀬は死んだ。
久我も死んだ。
篠宮恵美も死んだ。
由紀子は刺された。
だから私はずっと、
母の死後の復讐だと思っていた。
母を殺した人間を、
一人ずつ殺しているのだと。
でも。
三田村は火葬場で言っていた。
七人を、同じ場所に集める。
真壁刑事が、
七枚の封筒を見た。
「十五年前、水城千佳さんが作った最初の死亡通知を確認しましょう」
柿崎先生が持っていたコピー。
榊原美佐子のもの。
佐伯課長のもの。
父が保管していたもの。
三枚を並べる。
私は、
ある違いに気づいた。
「死因」
十五年前の通知には、
本当の死因が書かれていない。
柿崎先生。
医師免許を失う。
榊原。
家族を失う。
佐伯。
最も大切なものを失う。
死ぬとは、
書いていない。
「母は」
私は言った。
「人を殺すつもりじゃなかった」
真壁が頷く。
「少なくとも、原型を見る限りは」
怖がらせる。
追い詰める。
秘密を話させる。
それだけでも、
十分残酷だ。
でも、
現在の死亡通知とは違う。
今の通知には、
具体的な死因がある。
焼死。
刺殺。
転落。
薬物。
そして、
実際に死ぬ。
「誰かが母の仕組みを書き換えた」
「そう考えるのが自然です」
私は十五年前のコピーを裏返した。
白紙。
でも、
光に透かしたとき。
細い線が見えた。
「これ何?」
真壁が手袋をして受け取る。
斜めからライトを当てる。
紙の中に、
薄い数字。
1
別の通知。
3
もう一枚。
5
「番号?」
私は訊いた。
「整理番号でしょうか」
真壁が言う。
父が首を振った。
「違う」
「知ってるの?」
「ああ」
「何の数字?」
父は少し迷ってから、
答えた。
「順番だ」
「何の?」
「呼び出す順番」
私は父を見る。
「十五年前も、順番に届いた?」
「ああ」
「七人へ?」
「そうだ」
「全員同じ日に?」
「違う」
一人目。
二人目。
三人目。
数日ずつ間を空けて、
通知が届いた。
今と同じだ。
「じゃあ最後に?」
父が言った。
「七人全員に、もう一枚届いた」
「もう一枚?」
「集合通知」
初めて聞く言葉だった。
「どんな紙?」
「死亡通知とほとんど同じ」
「何が違うの」
「死亡場所の欄だけ」
私は息を止めた。
「何て書いてあった?」
父が答える。
「七人とも、同じ場所だった」
「どこ?」
父はすぐに言わなかった。
その顔で、
分かってしまう。
岸本総合病院。
「病院?」
「ああ」
二十九年前。
私が生まれた場所。
母。
奈緒。
篠宮恵美。
三人の女性がいた場所。
赤ん坊の名前が、
入れ替わった場所。
「母は七人を病院へ呼び出した?」
「そうだ」
「何のために」
父が私を見る。
「二十九年前のことを、全員の前で話させるためだ」
ようやく、
一本につながった。
死亡通知は、
処刑リストではなかった。
召集状だった。
誰にも無視させないため、
母は「死」という言葉を使った。
「七人は行ったの?」
父は首を振った。
「全員は揃わなかった」
「誰が来なかった?」
沈黙。
「父さん」
「高瀬」
一人目。
「それから三田村」
六人目。
「あと一人」
「誰?」
父は私を見た。
「お前だ」
私は固まった。
「私?」
「十四歳だった」
「死亡通知が私にも届いてた?」
「届いていた」
聞いていない。
覚えてもいない。
「何て書いてあったの」
父は答えようとしなかった。
私は詰め寄る。
「七人目は私だったの?」
「十五年前は」
その言い方が引っかかった。
「十五年前は?」
「今は違う可能性がある」
七枚目。
三田村が、
自分で書くと言っていた。
つまり、
十五年前と現在では、
七人目が違う。
「母は十四歳の私まで脅したの?」
「千佳は」
父が言う。
「お前に真実を選ばせようとした」
「何を?」
「自分が誰の娘なのか」
胸が痛んだ。
十四歳の私。
母に、
何かを見せられた。
白い紙。
写真。
赤ん坊。
泣いている女。
思い出しかける。
――澪。
母の声。
――明日、病院に来て。
――嫌。
――来なさい。
――嫌!
私は、
何かを投げた。
死亡通知?
「私、行かなかった」
「ああ」
「だから真実を知らないまま?」
父が頷いた。
二十九年間。
私は、
その続きを生きている。
*
真壁が十五年前の通知を、
もう一度調べた。
「気になるものがあります」
「何ですか」
「死亡場所欄です」
通常なら、
岸本総合病院。
それだけ。
でも特殊な光を当てると、
その下に消された文字があった。
旧産科病棟 地下資料室
「地下?」
私は訊いた。
柿崎先生の顔色が変わった。
「そこは今は使われていません」
「十五年前は?」
「記録保管庫でした」
「二十九年前の出生記録も?」
「一部は」
また、
消された記録。
「母はそこへ七人を集めようとした」
真壁が言う。
「はい」
柿崎先生が答える。
「そして、私たちに見せるつもりでした」
「何を?」
先生は黙った。
「もう隠さないで」
私は言った。
柿崎先生は、
ゆっくり息を吐く。
「三つの箱です」
「箱?」
「二十九年前、千佳さんが保管したものです」
「中身は?」
「赤ん坊の識別票」
私の胸が跳ねた。
篠宮恵美の遺品にもあった。
母 篠宮恵美
女児
「三人分?」
「はい」
三人の母。
三人の娘。
公式記録から消された、
三つの出生。
「箱は今もあるんですか」
「十五年前に消えました」
「誰が持ち出した?」
「分かりません」
「母?」
「違います」
柿崎先生は首を振った。
「千佳さんが病院へ来たときには、すでになくなっていた」
だから、
七人を集めた。
誰が箱を持ち出したのか。
誰が名前を変えたのか。
誰が、
どの赤ん坊を連れて帰ったのか。
全員に話させるために。
「でも、全員集まらなかった」
「はい」
「だから十五年前は失敗した」
「そうです」
私は現在の死亡通知を見る。
十五年前に失敗した計画。
それを、
誰かが再開している。
今度は、
絶対に欠席できない方法で。
人を殺して。
残った人間を恐怖で動かして。
「だから高瀬さんが死んだ」
私は言った。
一人目が死ねば、
二人目は通知を無視できない。
二人目が狙われれば、
三人目も動く。
父。
由紀子。
柿崎。
三田村。
私たちは、
通知が届くたびに、
同じ事件へ近づいている。
偶然じゃない。
「犯人は」
真壁が言った。
「七人を一人ずつ殺したいのではなく、残った関係者を動かしたい」
「死は手段」
「そうなります」
「じゃあ最後に何があるんですか」
誰も答えない。
私は現在の七枚を並べた。
ふと、
封筒の端が気になった。
一枚目。
小さな赤い線。
二枚目にも。
三枚目。
四枚目。
位置が少しずつ違う。
「並べて」
私は言った。
「順番どおり」
七枚の封筒を、
横に並べる。
赤い線が、
一本につながった。
地図のような形。
真壁が写真を撮る。
「これは……」
佐伯課長が息を呑んだ。
私は知っていた。
市内地図を毎日見るわけではない。
それでも、
この形は分かる。
岸本総合病院。
しかも、
赤い線の終点は病院そのものではなかった。
旧産科病棟。
その地下。
十五年前、
母が七人を集めようとした場所。
七枚の死亡通知は、
一枚ずつでは完成しない。
全部を並べて、
初めて意味を持つ。
私は地図を見つめた。
死亡通知は、
復讐のためではなかった。
これは最初から――
七人を一か所へ連れていくための地図だった。
コメント
1件
いやあ……第48話、一気に核心に迫ってきましたね。死亡通知が「復讐のためじゃなかった」という台詞、この回のタイトルにもなっているので覚悟して読み始めたんですが、本当にその通りでしたね。 何よりグッときたのは、母・千佳さんが「人を♡♡♡つもりじゃなかった」という主人公の気づきのシーン。恐怖で追い詰めるための“死”という言葉の使い方、でもそれは処刑リストではなく“召集状”。この逆転の発想が美しすぎます。そして七枚の封筒を並べると地図になる、という仕掛けもじわじわ怖い。 十四歳の主人公にも死亡通知が届いていたという伏線、「自分が誰の娘なのか選ばせようとした」という母の想い、涙なしでは読めませんでした。swingout777さんの伏線の回収の仕方、毎回丁寧で好きです。次話が待ち遠しい……!