その時優香が、
「アッ!」
と声を上げた。
「そうそう、ロッカーの場所と、あとはエプロンも渡さなくちゃね。エプロンの支給は一人2枚ね。
社員さんが黒で、パートさんとアルバイトさんが緑色です。洗濯は各自でお願いね」
「分かりました」
「あっと、そうだ、花純ちゃんはアレンジは出来るのかな?」
「はい…一応フラワー装飾技能士の一級を持っています」
「あら、それは助かる~! うちの会社は冠婚葬祭部門は専門部署があるから、店舗へ来るアレンジの依頼は、ほとんどがプレゼントとかお見舞いの類なの。たまーに近隣の会社やホテルなんかに配達を頼まれる事もあるけれど、ほとんどが半径1キロ以内だから…」
「分かりました。ちなみに学生時代に生花店でバイトの経験もあるので…」
「あらっ、本当に即戦力ね! 頼もしい!」
優香は嬉しそうに微笑む。
「じゃあコーヒーを飲んだら、そろそろ開店の準備を始めましょうか」
花純は慌ててコーヒーを飲み干す。
その時、
「あれー? 優香さん、新人さんかなー?」
花純が声のする方を振り向くと、そこには二人の男性が立っていた。
どちらもいわゆるハイスペック系のイケメンで、背が高く上質なスーツをピシッと着こなしている。
まるで少女漫画にでも出て来そうな絵になる二人だった。
しかし異性に全く興味のない花純は、顔色ひとつ変えずにそのままの姿勢でいる。
植物女子の花純が唯一興味を示すのは、草木や花々等の植物だけなのだ。
「あら、お二人さんおはようございます! そうよ、今日からうちで働く藤野花純ちゃんです。よろしくねー」
いきなり男性二人に紹介された花純は、
「藤野です」
そう言ってぺこりと頭を下げた。
「お花屋さんの新人さんはカスミソウの花純ちゃんかぁ。覚えやすいなあ! あ、初めまして、僕は板垣優斗です。
んで、こっちが高城壮馬ねー! 僕達従兄弟なんですよー」
二人のうち明るい髪色の少しチャラそうな方の男性は、そう言ってニッコリと微笑んだ。
「はぁ……」
花純は二人の関係性などには全く興味がなかったので、つい間の抜けた返事をしてしまう。
その反応がおかしかったのか、隣にいた壮馬という男性がプハッと笑った。
壮馬が笑ったので、優斗は少し恥ずかしそうに頭を掻いている。
そんな優斗へ、
「優斗さんのいつものパターンは、どうやら彼女には通用しないみたいね」
優香はそう言ってクスクスと笑う。
それを聞いた優斗は、
「普通はこんなイケメンが二人もいたら、『独身ですかぁ?♡』『お二人は従兄弟なんですかぁ?♡』
とか食らいついてくるのになぁ…おかしいなぁ…」
優斗はまだ納得がいかないといった様子でしきりに頭をかしげる。
「自分でイケメンと言ってる時点で終わってるんだけど?」
優香の追撃に、また壮馬がククッと笑った。
「壮馬までなんだよー、ちぇっ、ま、いっか。じゃあまたね、花純ちゃんっ!」
優斗は笑顔で言うと、二人に向かって手を振りながら歩き始めた。
壮馬も軽く会釈をすると、優斗と並んで歩き始めた。
二人が遠ざかると花純が聞く。
「どなたですか?」
「あの二人はね、このビルを持っている会社の人よ」
「ああ、じゃあ不動産会社の社員さんなんですね?」
いくら世間に疎い花純でも、このビルが高城不動産という大手不動産会社のものだという事は知っていた。
ビルが出来た当時は話題になり、テレビで散々取り上げられていたからだ。
「そう。でもね、あの二人は社員じゃなく副社長と専務なのよ」
「えっ?」
花純はびっくりして思わず声を出す。
大手不動産会社の重役と言えば、高齢で腹の出た恰幅の良い男性というイメージしかなかったからだ。
今見た二人は、どう見ても30代後半から40歳前後という年齢だろう。
驚いた花純は優香に聞く。
「よく喋る方が副社長さんですか?」
そこで優香が声を出して笑い始めた。
花純の『よく喋る方』というストレートな物言いがツボにはまったらしい。
そして涙を拭きながら答える。
「花純ちゃん逆よ逆! むっつり無口な方が副社長ね」
そこで花純は、自分が無口な方の男性の顔をほとんど見ていなかった事に気付く。
(仕立ての良いスーツくらいしか見なかったわ…ま、いっか!)
いくら同じビルで働いているとはいえ、不動産会社の重役と自分が関わる事などほぼないだろうと思った花純は、
特に気にしない事にした。
そして優香が席を立ったので花純も慌てて立ち上がり、店へ戻る優香の後を追った。
コメント
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イケメン2人に興味なしな花純ちゃん🤣今後が楽しみ😊
イケメンを見ても 全く興味を示さない植物オタクの花純ちゃん....🌴🤭🤭🤭 さて、この二人がこれからどう関わってくるのか楽しみですね🎶
優斗&壮馬をよく喋る方とムッツリに分類するマイペースでちょっぴり天然‼️な植物リケジョの花純ン🤭がこれからどう関わってくのかが見所ですね✨👀