コメント
30件
マリコ様 3話更新ありがとうございました ジュエリーショップですね❤️素敵な💍のプレゼントでさらに奈緒ちゃんを癒してあげてくださいね 省吾さん^_^
お嬢様、ごめんなさい、お疲れ様でした😊
奈緒ちゃんが恋人じゃなくてもあのお嬢さんは無いわね。 元町大好きです!マツクラで奈緒ちゃんにお似合いの指輪💍だよね💕 どんな指輪なんだろ?楽しみだ😊
「いやぁ~、あれにはほとほと手を焼いていましてね。そろそろ結婚をと思い何度か見合いをさせてみたんですが、いちいち相手にケチをつけるんですよ。じゃあどんな男がいいんだって聞くと、深山さんみたいな人がいいって言うもんですから、今日連れて来たって訳なんです。ハハッ、でも少し遅かったようですなぁ。深山君が売約済みとわかれば娘も諦めがつくでしょう。まあまた見合いでもさせますよ。今度はうちの有能な社員とでも引き合わせるかなぁ? ワッハッハ」
西田はそう言って豪快に笑う。
「そういう事でしたか。でも私なんかには勿体ないお話です。それにお嬢さんはとてもお綺麗ですから、引く手あまたですよ、きっと」
「そうならいいんですけどねぇ。まあ深山さんも漸くいい人を見つけたんですから、どうか末永くお幸せに」
「ありがとうございます」
省吾が頭を下げたので奈緒も一緒に頭を下げた。
それから三十分ほど打ち合わせをした後、二人は事務所を後にした。
駐車場の車へ向かいながら省吾が言った。
「それにしても参ったなぁ、娘を俺に押し付けようとしてたなんて」
「凄くお綺麗な方だったのに、残念でしたね」
奈緒がからかうように言うと、省吾は苦笑いをする。
「今日は君を連れて来て正解だったな」
「もしかして、この為に私を?」
「それはないない。俺は西田社長に娘がいる事も知らなかったんだから」
そして車に乗ると省吾が言った。
「一つだけ公平にデータを送らせてくれ」
「どうぞ」
省吾は頷くと、先ほど撮った写真の一部を公平宛てに送る。
「お待たせ。じゃあ行こうか」
省吾はシートベルトを締めると車のエンジンをかけた。
「せっかくこっち方面に来たから横浜にでも寄って行く?」
「横浜?」
「横浜は嫌い?」
「いえ、横浜は昔はよく買い物に行っていましたから」
「それはどの辺りの横浜?」
「みなとみらいの辺り?」
「そっか。じゃあ今日は元町方面にでも行ってみるか」
奈緒は昔、元町辺りにもよく買い物に行っていた。
元町商店街には、奈緒のお気に入りの店がいくつかある。
久しぶりにその辺りへ行けるのだと思うと嬉しかった。
すると、ハンドルを握りながら省吾が言った。
「俺の姉貴がさ、元町で店をやってるんだ。あ、正確には姉貴の旦那さんの店なんだけどね。そこへちょっと寄ってもいいかな?」
そう言われて奈緒は戸惑う。『偽装恋人』である自分が、省吾の親族に会っても大丈夫なのだろうか?
奈緒は急に心配になり聞いた。
「それは秘書としてついて行けばいいんですよね?」
「いや、一応『恋人』って事で頼むよ」
「えっ? でもご家族を騙すのは申し訳ないです」
「問題ないさ。あの人達はそんなの全然気にしないから」
省吾はそう言って微笑む。
しかし奈緒は近しい人に嘘をつくのは避けるべきではと悩んだ。
その時、不安気にしている奈緒に向かって省吾がきっぱりと言った。
「大丈夫! 君は普通に隣にいるだけでいいから」
省吾はニコニコしている。
結局奈緒は省吾に押し切られる形で、『恋人』として省吾の姉と会う事となってしまった。
目的地近くへ着くと、省吾は山下公園の近くのパーキングに車を停めた。
車から降りると省吾が言った。
「先に元町へ行こうか。食事はその後にしよう」
奈緒はうんと頷くと、省吾の後をついて行く。
夕暮れ時の横浜を歩きながら、奈緒は久しぶりに見る懐かしい街並みに胸がジーンと熱くなる。
奈緒がふと前を見ると、坂道の向こう側の空がサーモンピンクに染まっていた。息を呑むほど美しい色だ。
そしてピンク色の空には、時折鳥の群れが横切って行く。
徹と付き合い始めた頃、よくデートでこの町を訪れた。
思い出がいっぱい詰まったこの町に来たらきっと泣いてしまう……
そう思い、奈緒は今までこの懐かしい町に足を運ぶ事が出来なかった。
しかし今奈緒は泣いていなかった。思っていたよりも自分は強いのかもしれない。
もちろん悲しみがないと言えば嘘になるが、悲しみよりもなぜか懐かしい気持ちがこみ上げて来る。
少しずつ……ほんの少しずつではあるが、自分の中での区切りがついているのかもしれない。
奈緒はそんな風に思った。
その時奈緒は、加賀部長に言われた言葉を思い出した。
『時薬』
奈緒は今、その言葉の意味が少しわかったような気がした。
「どうかした?」
少し歩くペースが落ちた奈緒を省吾が振り返る。
「ううん、なんでもないです」
奈緒は小走りで省吾に追いつくと、また肩を並べて歩き始めた。
やがて二人は商店街を歩き始める。
元町商店街を歩きながら奈緒が聞いた。
「お姉様のお店はこの商店街にあるのですか?」
「そうだよ」
「どういうお店?」
「ジュエリーショップなんだ」
「へぇ……素敵ですね」
奈緒は思わず笑顔になる。
この商店街のジュエリーショップと言えば、数えるほどしかない。
奈緒はそのほとんどの店を知っている。
省吾の姉が嫁いだ宝飾店という事は、昔からここにある老舗の店だろう。
(……という事は、もしかしたらあの店かもしれない)
奈緒の予想は見事に当たり、省吾が歩みを止めたのはこの町に昔からある老舗の宝飾店だった。
しかしその宝飾店は奈緒が覚えている店構えとは全く違った。
奈緒の記憶では昔ながらの古びた店だったが、今目の前にある店はとてもお洒落な造りだ。
真っ白な漆喰壁にパステルピンクの窓枠。
女性が思わず足を止めてしまうような可愛らしい雰囲気の建物は、洒落たこの町の商店街にとてもよく馴染んでいる。
店のショーウィンドーには、素敵なジュエリーがセンス良くディスプレイされていた。
そして奈緒が覚えていた『松倉宝飾店』という店名は、『bijou MATSUKURA(ビジューマツクラ)』 という店名に変わっていた。