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集合時間を、五分だけ過ぎていた。
それだけのはずだった。
だが、並んだ班の列の前に立たされると、空気が一気に変わった。
笑いもざわめきも止まり、あとは風の音だけ。
「どういうことだ、遥」
教師の声は低く、乾いていた。怒鳴り声ではない。
むしろ淡々としていて、その冷たさが余計に怖い。
「すみません……道が……」
最後まで言えなかった。
言い訳を許さない沈黙の中、誰かのくすくす笑いが混ざる。
遥が顔を上げると、班の連中がわざと視線を逸らした。
「班の責任者は誰だ?」
教師が問うと、岸田が一歩前へ出た。
「俺です。でも、遥は途中でいなくなったんで。何度も呼んだんですけど」
「そうか。——本人はどうだ、聞いたか?」
「いえ、急にどっか行っちゃって。勝手に迷子になったみたいで」
その言葉に、列のあちこちで笑いが漏れた。
抑えた笑いではなく、あからさまに、音として響く。
「……そんなこと、してません」
やっとの思いで声を出した瞬間、岸田が冷たく笑った。
「なあ先生、反省してないですよね、これ」
「そうだな。せっかくの行事を台無しにされた気分だ」
教師の目が遥を射抜く。
「反省しているなら、態度で示せ。みんなの前で謝れ」
遥は言葉を失った。
頭を下げれば、また笑われる。
下げなければ、もっと怒られる。
どちらにしても、逃げ場はない。
「……すみませんでした」
小さく言うと、後方から誰かが「聞こえませーん」と茶化す声。
笑いが波のように広がる。
教師は止めない。むしろ、「もっとはっきり」と促す。
「すみませんでした」
声を張ると、口の中に血の味がした。唇を噛みすぎていた。
「何に対してだ」
「……迷惑を、かけて……」
言葉の途中で、また笑いが起きる。
自分の声が、自分のものじゃないみたいに震えていた。
「よし、反省できたな」
教師が言うと同時に、班の誰かが小声で「犬みたい」と笑った。
他の班の生徒までがその言葉に反応して、ざわざわと笑い声が重なる。
遥の喉が固まる。
“犬”——その言葉だけで、全身が冷えた。
「昼食は全体でとるが、遥は少し後で来い」
そう言い残して、教師は背を向けた。
遥だけがその場に立ち尽くす。
足が動かない。
“もう誰も見てない”はずなのに、
笑いの余韻だけが、皮膚の下にこびりついて離れなかった。