テラーノベル
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夜。家に帰って、部屋の灯りも点けずにベッドにうずくまる。
スマホの通知音だけが小さく鳴り続ける。
耳を塞いでも、音は頭の奥にまで届く。
画面を開いた瞬間、冷水を浴びせられたように体が強張った。
グループLINEが流れ続けている。
「今日の遥、最高だったな」
「先生の前で犬みたいに謝っててウケた」
「“すみませんでした”3回目が一番おもしろかった」
笑いの絵文字が無数に連なって、まるで拍手のように画面を埋め尽くしている。
その隙間に、別の言葉が刺さる。
「次は首輪でも持ってきてやろうか」
「いや、首輪より“迷子札”じゃね」
「『俺、勝手に迷子になりました』って書いて」
遥は指先が震えて、スマホを落としそうになる。
それでも拾って、画面を見続ける。
目を逸らしたら、もっと悪くなる気がした。
「なあ、遥。反省した?」
「ちゃんと“わん”って言わなきゃ伝わらないかもな」
「“わん”て言ったら返事してやるか」
既読がどんどんついていく。
全員が順番に笑っているのがわかる。
「遊び」だという空気だけが漂っている。
指が勝手に動いて〈もうやめて〉と打ちかける。
だが、送信ボタンの手前で消してしまう。
そんなことを書いたら、もっと笑われる。
その光景が頭に浮かんで、手が止まる。
「また泣いてんじゃねーの」
「画面の向こうで犬座りしてそう」
「誰かスタンプ貼ってやれよ」
スタンプの嵐が画面に降ってくる。犬の顔、迷子のマーク、笑う顔。
画面が白く光りすぎて、涙で滲む。
遥は声を出そうとして、喉が詰まる。
息ができない。
笑い声は画面の中にしかないのに、耳元で囁かれているみたいに感じる。
「おまえ、ほんとにおもしれーな」
「明日も頼むわ、迷子くん」
「俺らのエンタメだから」
最後のその一文で、胸の奥の何かがひきちぎられたように痛んだ。
笑われるために存在しているみたいな言葉。
返事ができない。
でも、既読はついてしまう。
“また見てる”ことだけが、相手への合図になる。
画面の明かりが、手の甲に落ちる。
その白さが、血の気のない自分の皮膚みたいだった。
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