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第1話「おはよう代表」
ヒロトは、黒髪を短く刈り揃えた、やや眠たげな目つきの男子高校生。制服のシャツは少しシワがあり、ネクタイも緩んでいる。クラスメイトからは「代表人格が寝坊体質」として有名だ。
今朝もその代表人格はまだ奥でぐうぐう寝ている。代わりに表に出てきたのは“お調子者人格”。髪型も同じなのに表情がまるで違い、口角を上げてにやにや笑い、常に落ち着きがない。
1限目の現代文。先生が「この詩から作者の心情を答えられる人」と問いかけると、ヒロトの体が勢いよく手を挙げる。
「はーい!作者はたぶん、昨日カレー食べてお腹いっぱいだったんですよ!」
クラスがどっと笑う。
先生は苦笑しつつも、「今日は元気だなぁ、ヒロト」と言った。実はこの社会、誰もが複数の人格を持っているのが当たり前。授業中も“誰が出ているか”で雰囲気が変わるから、教師も慣れっこだ。出席簿には「代表人格」と並んで「同居人格一覧」まで書かれている。
お調子者人格は次々と答えを連発し、クラスは笑いの渦。隣の席のマユ――茶髪のボブで、眼鏡をかけた女子――が小声で囁いた。
「代表、また寝坊?そろそろ起きないと恥ずかしいよ」
その瞬間、体の中でごそごそと揺れるような感覚。
「……ん?なに、今何時?」
ぼんやりとした声とともに、ヒロトの代表人格がようやく表に出てきた。
気づけばクラス中の視線が集中している。お調子者人格が残した“変な回答”の数々がノートに書き殴られていた。
「作者=カレー」「心情=おかわり希望」などの落書き。
代表人格のヒロトは真っ赤になり、机に突っ伏した。
「……俺じゃない、俺じゃないってば!」
だがクラスメイトは笑顔で手を叩く。
「いやぁ、ヒロトってほんと切り替わるとおもしろいよな!」
多重人格社会では、こうした“人格のすれ違い”は日常茶飯事。
ヒロトにとっては赤っ恥の一日だったが、クラスにとっては最高のコントショーだった。