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第2話「恋は人格渋滞」
ミユは大学二年生。黒髪を耳の横でまとめた清楚な雰囲気の女子で、白いブラウスに薄いグレーのカーディガンを羽織っている。見た目は落ち着いて見えるが、中には三つの人格が同居していた。
一つ目は“甘えん坊人格”。声が高く、仕草も子どもっぽい。
二つ目は“毒舌人格”。表情は鋭く、語尾に必ず皮肉が入る。
三つ目は“哲学人格”。目を細めて遠くを見つめ、何でも深読みする癖がある。
今日、彼女はキャンパスの帰り道で、片思い中の同級生ケンジと二人きりになった。
ケンジは茶髪をラフに整えたスポーツ系男子。チェックのシャツにデニム、背は高く、笑うと八重歯が見えるタイプだ。
夕暮れの歩道。ミユの中で甘えん坊人格がそわそわして前に出てきた。
「ねぇ、ケンジくん……わたし、ずっと……好き、なんだよ?」
ケンジは驚いた顔で立ち止まる。
その瞬間、別の人格が交代。
「――って、嘘に決まってんじゃん。あんたモテそうだから、試しただけ」
毒舌人格が顔をしかめて言い放つ。
ケンジは混乱し、視線を泳がせた。だが追い打ちをかけるように、さらに人格交代。
「人が人を好きになる理由なんて、進化の副産物にすぎない……恋など虚構だよ」
哲学人格が眼鏡をくいっと上げるような仕草をして、深刻な声でつぶやいた。
ケンジは頭を抱えた。
「えっと……どれが、本当のミユなの?」
多重人格社会では、こうした“告白渋滞”は珍しくない。人によっては告白イベントが半日続くこともある。役所に行けば「告白登録書」まで存在し、どの人格が本気で言ったかを記録できるほどだ。
しかしミユは、ようやく代表人格に戻って真っ赤になり、両手を振った。
「ち、違うの! さっきのは全部……」
ケンジは苦笑して答えた。
「ごめん、俺……もう少し整理する時間がほしい」
ミユは心の中で三つの人格が同時に叫ぶのを感じた。
「どうして逃げたの!?」
「だから言ったでしょ!」
「愛とは幻想だ……」
歩道に残された彼女の顔は、笑い泣きと赤面と哲学的な虚無感が入り交じり、もう自分でもコントロールできなかった。