TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

11月も中旬に差し掛かったある日、瑠璃子の携帯にメッセージが届いた。

メッセージは伊藤モータースの社長の妻・伊藤百合子からだった。


【こんばんは。お仕事にはもう慣れましたか? もし余裕があるようでしたらランチでもご一緒にいかがですか?】


岩見沢で初めて出来た女友達からの誘いを瑠璃子は喜んで受けた。



約束の日、百合子は瑠璃子のマンションまで車で迎えに来てくれた。

百合子の車は可愛らしいベージュ色の軽自動車だった。


「百合子さん、お久しぶりです。迎えにきていただきありがとうございます」

「いえいえこちらこそ。お忙しいのにお付き合いいただきありがとう」


瑠璃子が助手席に座ると車はスタートした。

今日は百合子おすすめのイタリアンの店に連れて行ってくれるようだ。その店は以前瑠璃子がスープカレーを食べた店と同じ方向にある。

車はしばらく県道を進んだ後左折して一本奥の道に入る。そして更に進むとコーラルピンクの店が見えてきた。

店の入口にはイタリアの国旗が掲げられすぐ近くには白樺の森もある。

その可愛らしい外観はおとぎ話の世界に出てくるような雰囲気だ。


「素敵! この辺りは何度か通りましたが裏にこんなお店があるなんて知らなかったです」

「一本奥に入るとね、地元の人しか知らないような店が結構あるのよ」

「そうなんですねー」


瑠璃子は感激しながら百合子の後へ続く。

店内に入った二人は白樺の森が見渡せる窓際の席へ座った。


メニューを見るとどれも美味しそうだ。

散々悩んだ末、二人はパスタランチセットを頼んだ。


「やっとお会いできて嬉しいわ。もうお仕事には慣れた?」

「はい、もうすっかり。同僚が優しい人ばかりなのですぐに馴染めました」

「それは良かったわ。ところで瑠璃子さんの職場に木村雪子って人がいるでしょう?」


百合子が先輩の木村の名前を口にしたので瑠璃子は驚く。


「私と同じ科の先輩です。木村さんは私の指導員をしてくれました」

「そうなんだー。実は彼女は私の同級生なのよ」

「えっ? そうなんですか?」

「木村さんのお嬢さんはうちの桃子と同級生で今小学校一年生なの」


それを聞いた瑠璃子は驚く。


「お母さん同士が同級生でお子さん同士も同級生?」

「フフッ、そうなの」

「へぇー、なんか凄いですね」


そこで百合子が瑠璃子に聞いた。


「もう一つ聞いてもいい? 瑠璃子さんはどうして東京から岩見沢に来たの?」

「あ、はい。実は祖母の家が岩見沢にあったんです。あ、今はもうないですけど。うちは母子家庭だったので夏休みはいつも祖母の家に預けられたのでそんな縁もありこちらの病院に来たんですよ」

「そうだったのねー。実はずっと不思議だったのよ。ほら、東京から札幌の病院にっていうのはよくあるけれどわざわざ岩見沢に来るっていうのは珍しいからなんでかなーって思ってたのよ。でもお話を聞いて納得したわ」

「でも岩見沢で過ごしたのは小学4年まででしたし、居たと言っても祖母の家以外はほとんど知らないんですよ」

「そうなの? じゃあ私が今度案内するわ」


百合子の申し出は嬉しかったが瑠璃子はもう既に市内巡りをした事を伝えた。


「ありがとうございます。でも先日岸本先生にこの辺りを案内してもらったので」


それを聞いた百合子は驚いていた。

百合子の話によると大輔がプライベートで職場の人間と付き合うのは珍しいらしい。幼馴染である百合子の夫がバーベキューや飲み会に誘ってもほとんど参加しないと言っていた。職業柄時間があまり自由にならないのでそれも仕方のない事だが元々大輔は一人でのんびりリラックスする方が好きなのだろうと百合子は言う。


「心臓外科医なんてずっと緊張状態の中でのお仕事だもの、無理もないわよね。あ、そう言えば大輔さんの家はこの近くにあるのよ」

「え? お医者様って、皆病院の近くのマンションに住んでいると思ってました」

「若い頃はそうだったけれど数年前にこの辺りに土地を買ったのよ。そこに家を建てて住んでいるわ。たまたま同級生の一人が札幌で建築事務所を開いていてね、その人に頼んで家を建ててもらったの」

「え? 家を建てて住んでいるって事はご家族と一緒にですか?」


瑠璃子は戸建てに住んでいるのなら大輔は結婚しているのかもしれないと思った。


「ううん、大輔さんは独身よ。元々自然が好きなのと仕事柄毎日緊張の連続だから家にいるくらいはリラックスしたいんでしょうね。それに郊外って言ってもここから病院までは車で飛ばせば10分くらいでしょう? ただ目が離せない患者さんがいると病院に寝泊まりしているみたい。うちの夫は医者の不養生だって言って心配しているわ」


百合子も心配しているようだが瑠璃子はなるほどと思った。

瑠璃子も自然が好きなので将来市内に家を持つとしたら大輔のように郊外に家を建てるのも悪くないと思う。

そこで瑠璃子は以前から気になっていた事を百合子に聞いた。


「岸本先生って無口で物静かですよね?」


瑠璃子は大輔のあだ名が『デスラー』だという事は触れずに百合子に聞いた。

すると百合子は一瞬言おうかどうしようか悩んだ様子をしてから口を開いた。


「実は大輔さんの医学部時代にね、彼の同期の親友が自殺してしまったの。その時は相当ショックを受けていたらしいわ。それが原因で医学部を辞めようと思った事もあるみたい。でも結局はその時の辛さをなんとか乗り越えて今は立派な外科医になっているけどね。もしかしたらあの頃から無口になったかもしれないって以前主人が言ってたわ」


百合子の話に瑠璃子は衝撃を受ける。


「まあ元々あまり喋らない人だから余計にそう見られちゃうのかな? 普段私達とは普通に話しているしたまたま誤解されやすい人なのかも」


百合子の話を聞いた瑠璃子は、大輔が感情を表に出さずにいつも静かでいる理由が少しわかったような気がした。


その後二人は互いの事や東京の話で盛り上がる。

百合子の実家は岩見沢市内にあり夫である伊藤とは地元で知り合ったと言った。

百合子は大学卒業後東京から戻ると市内の銀行に就職した。その時百合子がいた窓口に客として来ていたのが夫の伊藤だ。

二人はそこで知り合い結婚した。


お喋りに夢中になっているとあっという間に時間が過ぎた。

そろそろ百合子の愛娘の桃子(ももこ)が学校から帰る時間なので二人は店を出た。

百合子は瑠璃子をマンションまで送ってくれた。


「また是非ランチに行きましょう。あ、もし良かったら今度は居酒屋でもOKよ」

「いいですねぇ、楽しみにしています」


挨拶を交わした後、百合子は走り去って行った。

瑠璃子は車が見えなくなるまで手を振る。

楽しいひと時を過ごした瑠璃子は姉のように優しい女友達が出来た喜びで胸がいっぱいだった。



一方、瑠璃子のマンションを後にした百合子は自宅ではなく夫が経営する伊藤モータースへ寄る。

店に入りカウンターまで行くと夫の隆(たかし)が妻に気付いて声をかけた。


「ランチは楽しかった?」

「ええ、とっても。瑠璃子さんすごく素敵な人だったわ。あとね、すごい話を聞いちゃった」

「すごい話ってなんだ?」

「フフッ、あの大輔さんが瑠璃子さんを市内観光に連れて行ったんだって」

「えっ!? 大輔が?」


隆はかなり驚いている。

そんな夫に百合子は微笑んで言った。


「ねぇ、これから楽しくなりそうね」

「ああ、楽しみだな」


二人は顔を見合わせるとニッコリと微笑んだ。

ラベンダーの丘で逢いましょう

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

583

コメント

13

ユーザー

悲しい過去を背負いながらも 素晴らしいお医者様になり、たくさんの人の命を救ってきた大輔先生.... そんな彼にとって 瑠璃ちゃんは癒しであり、かけがいのない人に変わってきているね🍀✨

ユーザー

伊藤家の女性は、名前に植物が入ってるんやね。子供から大人まで違和感のない、ええ名前やと思う。思うけど、歌うてしまう。あなたにぃ~、つたえたぁいの、このむねのとぉきめきぃ~(菊池桃子『雪に書いたLOVE LETTER』より)まだ、ちょっと早いか。

ユーザー

百合さん達はきっと瑠璃ちゃんと大輔さんを暖かく見守り&応援してくれそう🫶🫶 大輔さんの過去を聞くと支えてあげたくなるんじゃない? どんなお家なのか気になるし行ってみたいね🥹

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚