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「なあ」
「入室一秒でどうした」
「俺さ、心配されるの、嫌いかもしれん」
「珍しく素直だな」
「“かもしれん”って付けたからセーフ」
「アウト寄りだが聞こう」
相談者は椅子に座り、腕を組む。
「落ち込んでる時にさ」
「うん」
「“大丈夫?”って聞かれるだろ」
「定型文だな」
「それ」
「嫌?」
「嫌」
「即答だな」
「だってさ」
少し間を置いてから続ける。
「大丈夫じゃない前提で来られるの、
きつい」
「なるほど」
「しかも」
「まだある」
「説明しなきゃいけない空気になる」
「あー」
「放っといてくれたら、そのうち戻るのに」
「回復型か」
「そう。放置回復」
「ゲームか」
蓮司は軽く笑ってから言う。
「心配されると、何が一番嫌だ?」
「……」
一瞬、相談者の言葉が止まる。
「弱ってる自分を、見られる感じ」
「見せたくない?」
「見せる準備できてない」
「でも相手は善意」
「分かってる。分かってるから余計言えない」
「“放っといて”って?」
「言ったら冷たい奴みたいだろ」
「実際は?」
「自分のペース守りたいだけ」
沈黙。
「なあ」
「何」
「放っておいてほしい、って」
「うん」
「“一人にして”とは違うぞ」
「違うな」
「距離の話だ」
「そうそう」
相談者は少しだけ前のめりになる。
「そばにはいていい。でも触るな、みたいな」
「猫か」
「褒めてる?」
「扱いづらいという意味でな」
「ひどい」
でも、どこか納得した顔。
「心配されるとさ」
「うん」
「“ちゃんと反応しなきゃ”って思う」
「期待に応えようとする」
「そう」
「それがもう、しんどい」
「優しいな」
「やめてくれ」
「褒めてる」
「今それいらん」
蓮司は少しだけ声を落とす。
「心配が嫌なんじゃない」
「……」
「“管理される感じ”が嫌なんだろ」
相談者は息を吐く。
「それだ。状態チェックされる感じ。“今日どう?”とか、逃げ場がない」
「放っておいてほしいって、逃げたいんじゃなくて」
「?」
「自分で立ち直る余白がほしい」
「…… 余白、か」
相談者は天井を見る。
「俺さ」
「うん」
「誰かに心配されないと、
存在してない気がする人もいるの、
知ってる」
「知ってる」
「でも俺は逆。心配されると、自分じゃなくなる」
「演じる?」
「そう。“弱ってる人役”」
「それをやりたくない」
「やりたくない」
しばらく沈黙。
「じゃあさ」
「何」
「放っておいてほしい時、どう伝える」
「……難問」
「“今は一人で大丈夫”」
「優等生」
「“大丈夫になったら話す”」
「それいいな」
「期限を切ると、相手も安心する」
「なるほど」
相談者は小さく笑う。
「心配されるのが嫌、って」
「うん」
「冷たいわけじゃないよな」
「違う。距離感の問題」
「そう」
立ち上がりながら言う。
「俺、誰にも頼らないつもりはない」
「知ってる」
「ただ」
「ただ?」
「頼るタイミングは、自分で決めたい」
「それでいい」
ドアの前で一言。
「心配より、信じてほしい時もある」
「いいこと言うな」
「今のは自覚あり」
ドアが閉まる。
放っておいてほしい、は
拒絶じゃない。
回復の仕方の違いだ。