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9話 129スポット 地元で集団引っ越しする事になる。
団地の通路に、
見慣れない機械が置かれている。
箱みたいな形。
角は丸く、
配線が少ない。
引っ越し専用機。
おかあさんは、
その前に立っている。
肩までの髪をまとめ、
動きやすい服。
手には、
薄い手帳。
番号を確かめ、
機械に触れる。
リカは、
少し離れたところで見ている。
長めの上着。
袖は手の甲まで。
腰元で、
電子マネーのキーホルダーが
落ち着かなく鳴る。
部屋の中は、
もう半分空いている。
箱は積まれ、
中身は見えない。
「向こうでは、
もう待ってるって」
おかあさんの声。
26934の先。
新しいマンションの部屋。
お父さんが、
向こう側で待機している。
一つずつ、
荷物を通す。
すぐ終わらせない。
時間をかけて、
順番に。
機械は、
静かに動き続ける。
その間に、
友達が来る。
軽い上着。
肩から下げた鞄。
ぬいぐるみほどのサルが
箱の上で揺れる。
「手伝うよ」
別の友達もいる。
髪をきちんとまとめ、
端末は持っていない。
手元は空いている。
もう一人は、
少し派手な服装。
複数のキーホルダーが
じゃらっと鳴る。
部屋が、
一気に狭くなる。
動きは多い。
でも、
慌ただしすぎない。
「でさ」
軽い声。
「10024に行くよね?」
冗談みたいに、
何度も出る。
リカは、
笑って流す。
返事をする前に、
おかあさんが言う。
「26934番よ」
箱を押さえながら、
迷いなく。
「そこに行くの」
友達が、
一瞬だけ黙る。
「そこってさ」
聞いたことのある話。
各地の、
廃れていくスポットから
人が集まる場所。
新しいけど、
整いすぎていない。
住むための場所。
作業は続く。
箱が減り、
床が見える。
団地の部屋が、
音を失っていく。
夜。
最後の箱を通す。
おかあさんは、
手帳を閉じる。
「今日はここまで」
機械の音が止まる。
リカは、
部屋を見渡す。
番号は、
まだ129。
でも、
動いているのは
もう違う方向。
キーホルダーを握る。
軽くなった感じは、
まだしない。
それでも、
ここに戻る理由が
少しずつ減っている。
誰も、
それを口にしない。
引っ越しは、
続いていく。
番号ごと、
時間をかけて。