次の週の月曜日、奈緒は他の社員達と顔を合わせたくなかったので少し早めに出勤した。
秘書室へ到着すると、いつものように朝のルーティーンを始める。
そこへさおりと恵子が続けて出勤してきた。
二人がロッカーへ荷物を置きに行っている時、珍しく社内放送が流れた。
『おはようございます。本日午前9時15分より朝礼を行ないます。お手すきの方は、40階の経営戦略本部フロアへお集まり下さい』
(朝礼?)
奈緒が不思議に思っていると、戻って来た恵子が言った。
「朝礼なんて珍しいですねぇ」
「ほんと久しぶりね。一体何の話かしら?」
二人の話からすると、朝礼が行われるのは久しぶりのようだ。
9時になると、三人は奈緒が用意したコーヒーを持って、それぞれのボスの部屋へ向かった。
奈緒がCEO室のドアをノックすると、すぐに返事が聞こえた。
「どうぞ」
奈緒は一礼をして部屋に入る。
「おはようございます。コーヒーをお持ちしました」
奈緒はデスクの上にコーヒーを置くと、今日のスケジュールを読み上げた。
「サンキュー」
スケジュールの確認をした省吾は、美味しそうにコーヒーを一口飲んだ。
「あの、今朝は朝礼があるのですか?」
「うん、麻生さんもちゃんと出てね」
「あ、はい」
朝礼でどんな話をするのか聞いてみたかったが、省吾が忙しそうにパソコンに向かっていたので、奈緒は聞くのを諦める。そしてCEO室を後にした。
秘書室へ戻ると、恵子が奈緒に聞いた。
「朝礼で何の話をするか深山さん言ってた?」
「特に言ってませんでした」
「そっか。だったら大した事じゃないのかな?」
恵子はそう言うと、残りのコーヒーをカップに入れて奈緒とさおりに持って来てくれた。
そして三人はコーヒーを飲んだ後、朝礼が行われる40階まで降りて行く。
経営戦略本部のフロアには人が溢れていた。
以前奈緒がエレベーターで一緒になった、茶髪にピアスの若いエンジニアの姿も見える。
彼は普段39階で仕事をしているので、この階で見るのは珍しい。
その他にも、普段あまり顔を合わせない社員の姿もあった。
奈緒は目立ちたくなかったので、さおりと恵子の後ろに隠れるようにして立っていた。
しかしそれでも気付かれて、何人かの女子社員が奈緒を指差してヒソヒソと噂話をしている。
そこでさおりが大声で叫んだ。
「ちょっとぉ! 陰口はやめてもらえる?」
その声にビクッとした女子社員達は、罰の悪そうな顔をしながら慌てて後ろへと移動して行った。
「ほんと女って噂話が好きよねー。私も前の会社で散々やられたから奈緒ちゃんの気持ちすごくよくわかる。でも気にしちゃ駄目だからね」
「はい」
奈緒は二人の先輩にがっちりガードされていたので、かなり心強かった。
その時、ガヤガヤと騒がしかった部屋が急に静まり返った。
役員達が来たようだ。もちろんその中に省吾もいる。
上層部が揃ったところで、人事部長の杉田がマイクを手にして話し始めた。
「えー、では朝礼を始めたいと思います。今朝みんなに集まってもらったのは、社内でちょっと残念な事があったのでそれについてです。その残念な事というのは、ある社員が誹謗中傷を受けているという事です」
杉田はそう言ってから、群衆をぐるりと見回す。そして隅にいる奈緒を見つけると手招きして呼んだ。
「麻生さん、ちょっとこっちへ来てもらってもいいですか?」
「えっ?」
突然呼ばれたので奈緒は驚く。その横の恵子もびっくりしていた。
しかしさおりだけは落ち着いた様子で奈緒にこう言った。
「奈緒ちゃん行ってらっしゃい。大丈夫よ、上は悪いようにしないわ」
「…………」
それでも奈緒はまだ戸惑っていたが、さおりが奈緒を安心させるように微笑んだので、意を決して前に進み出る。
そして杉田の傍まで行った。
「麻生さんごめんね、ちょっとだけお付き合い下さい」
杉田はそう言うと、自分と省吾の間に奈緒を立たせた。
「説明しなくてももうわかりますよね? 彼女は秘書課の麻生さんです。入社してまだ一ヶ月ちょっとかな? 彼女は毎日凄く良く頑張ってくれています。そんな彼女が、最近誹謗中傷の的になっていると聞きました。こういった事があるとねー、うちの会社はすぐに対処するんですよ。今までもそうだったよね? で、我々は今その噂の出所を調査中です。大体の情報は既に掴んでいますが、もうちょっと聞き取り調査をしたいので呼び出しを受けた方は速やかにご協力をお願いします」
杉田が言い終わると、社員達の間に動揺が広がりフロア内がざわざわと騒がしくなった。
その群衆の一角に名取美沙の姿があった。
美沙は今杉田が今言った、
『噂の出所を調査中』
という言葉を聞き青ざめている。
その時若手の社員が叫んだ。
「対処っていうのは、また例の『島流し』ですか?」
杉田は苦笑しながら答えた。
「まあそうなりますね。我々は社員同士の信頼関係やコミュニケーションを一番大事にしています。だからチームの輪を乱すような人間がいたら、すぐに他所へ行ってもらいます。うちはこれまでもそうしてきました。そして今後も変わる事はありません。だから今年入った新人さん達はよーく覚えていて下さいね」
その言葉に新入社員達は慌てて大きく頷く。
そして杉田は続けた。
「こんなくだらない調査にわざわざ時間を割くのは、はっきり言って時間の無駄です。だから呼び出された人は速やかに真実を話して下さい。本来なら噂話を広めた人も同罪ですが、きちんとご協力いただければ今回に限り見逃しますのでどうかご協力よろしくお願いします。以上!」
話を終えた杉田はマイクを口元から離してスイッチを切ろうとした。
しかしそこで突然横にいた省吾がマイクを奪う。
そして省吾はマイクを口元へ持っていき話し始めた。
コメント
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上層部の迅速な対応が サイコーに素晴らしい‼️👍️💕 さて 省吾さん、 一体何を語るのか....⁉️😎🎙️💕
なんて行動力のある上層部👏👏 誹謗中傷には厳しく対処して欲しいよね。コネ入社とか関係ないよ💦今頃美沙は島流しで震え上がってる? さて省吾さんは何を話すのかしら😎🎤💕💕
名取美沙 噂流して 島流し わたしもその場にいたら、「島流しっすか。どこに流すんっすか。」って叫んだやろな。