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さぶた@気分屋
101
土曜日。
紬は自分の部屋で、古いアルバムを開いていた。
ページをめくる。
幼稚園。
小学校低学年。
運動会。
夏祭り。
三人で撮った写真が何枚もある。
その中の一枚で、指が止まった。
蒼真が笑っている。
髪が肩にかかるくらい長い。
隣には紬。
さらにその隣に悠生。
三人とも、まだ何も知らない顔をしている。
「……これ」
紬は写真を指でなぞる。
昔の自分は、蒼真を見て笑っている。
蒼真を見れば、いつも笑っていた。
そのことに今さら気づいた。
「紬」
突然、部屋の外から声がした。
「いる?」
蒼真だった。
紬は慌ててアルバムを閉じる。
「いる」
ドアが開く。
蒼真が顔を出す。
「母さんがこれ」
紙袋を差し出す。
「置いとく」
「……うん」
蒼真は机の上を見る。
閉じられたアルバム。
「何見てた?」
「別に」
「また昔の写真?」
紬は答えない。
蒼真の顔から、笑みが消える。
「……紬」
「何」
「もう、そういうのやめろよ」
「なんで」
「分かるだろ」
「分かんない」
紬はアルバムを抱える。
「俺は好きだから」
蒼真の眉が動く。
「何が」
「昔の蒼真が」
その言葉が落ちた瞬間。
蒼真の表情が固まった。
「……俺は嫌い」
紬は黙る。
「その頃の自分」
「でも」
「俺は戻りたくない」
強い声だった。
紬も負けずに言う。
「戻れなんて言ってない」
蒼真が黙る。
「ただ、好きだったって言ってるだけ」
「それが嫌なんだよ」
「なんで?」
「……」
蒼真は答えない。
紬は一歩近づく。
「俺が何かした?」
「してない」
「じゃあ、なんで俺まで嫌うの」
蒼真の顔が歪む。
「嫌ってない」
「じゃあ、なんで避けるの」
「……」
「なんで昔の話をすると怒るの」
蒼真は目を逸らした。
しばらくして、低い声で言う。
「お前には関係ない」
「兄弟なのに?」
「だからだよ」
紬には意味が分からない。
「……どういう意味」
蒼真は答えなかった。
代わりに、アルバムへ目を向ける。
「それ、捨てろとは言わない」
「じゃあ」
「俺に見せるな」
それだけ言って部屋を出ていく。
ドアが閉まる。
紬はアルバムを開く。
さっきの写真を見る。
幼い蒼真が笑っている。
その顔を見ながら、紬は呟く。
「……何があったの」
答えはない。
その頃。
蒼真は自分の部屋に戻っていた。
机の引き出しを開ける。
奥にある小さな箱。
手を伸ばす。
今度は、引き出しを閉めなかった。
箱を取り出す。
蓋に手を置く。
けれど。
開けることはできない。
スマホが鳴る。
悠生からだった。
『今、話せる?』
蒼真は画面を見つめる。
少し迷ってから、
『無理』
と返す。
すぐに返信が来る。
『そっか』
それだけ。
蒼真はスマホを伏せる。
箱を見つめる。
そして小さく呟いた。
「……まだ、言えない」
箱は閉じたまま。
蒼真の机の上に残った。
コメント
1件
うわ、今回のエピソード、すごく胸に来ました…。幼い頃の無邪気な写真と、今の蒼真の「戻りたくない」「俺に見せるな」という言葉の温度差が痛すぎる。紬が「何があったの」と呟くシーン、あの静けさが逆に重くて。そして最後の箱と「まだ言えない」の台詞——後で絶対に回収される伏線ですよね。この距離感がどう動くのか、続きが気になります。