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来華
90
#mlmk
I am 壁 @自給自足
62,199
#だてなべ
ゆー
4
土曜日。
紬は自分の部屋で、古いアルバムを開いていた。
ページをめくる。
幼稚園。
小学校低学年。
運動会。
夏祭り。
三人で撮った写真が何枚もある。
その中の一枚で、指が止まった。
蒼真が笑っている。
髪が肩にかかるくらい長い。
隣には紬。
さらにその隣に悠生。
三人とも、まだ何も知らない顔をしている。
「……これ」
紬は写真を指でなぞる。
昔の自分は、蒼真を見て笑っている。
蒼真を見れば、いつも笑っていた。
そのことに今さら気づいた。
「紬」
突然、部屋の外から声がした。
「いる?」
蒼真だった。
紬は慌ててアルバムを閉じる。
「いる」
ドアが開く。
蒼真が顔を出す。
「母さんがこれ」
紙袋を差し出す。
「置いとく」
「……うん」
蒼真は机の上を見る。
閉じられたアルバム。
「何見てた?」
「別に」
「また昔の写真?」
紬は答えない。
蒼真の顔から、笑みが消える。
「……紬」
「何」
「もう、そういうのやめろよ」
「なんで」
「分かるだろ」
「分かんない」
紬はアルバムを抱える。
「俺は好きだから」
蒼真の眉が動く。
「何が」
「昔の蒼真が」
その言葉が落ちた瞬間。
蒼真の表情が固まった。
「……俺は嫌い」
紬は黙る。
「その頃の自分」
「でも」
「俺は戻りたくない」
強い声だった。
紬も負けずに言う。
「戻れなんて言ってない」
蒼真が黙る。
「ただ、好きだったって言ってるだけ」
「それが嫌なんだよ」
「なんで?」
「……」
蒼真は答えない。
紬は一歩近づく。
「俺が何かした?」
「してない」
「じゃあ、なんで俺まで嫌うの」
蒼真の顔が歪む。
「嫌ってない」
「じゃあ、なんで避けるの」
「……」
「なんで昔の話をすると怒るの」
蒼真は目を逸らした。
しばらくして、低い声で言う。
「お前には関係ない」
「兄弟なのに?」
「だからだよ」
紬には意味が分からない。
「……どういう意味」
蒼真は答えなかった。
代わりに、アルバムへ目を向ける。
「それ、捨てろとは言わない」
「じゃあ」
「俺に見せるな」
それだけ言って部屋を出ていく。
ドアが閉まる。
紬はアルバムを開く。
さっきの写真を見る。
幼い蒼真が笑っている。
その顔を見ながら、紬は呟く。
「……何があったの」
答えはない。
その頃。
蒼真は自分の部屋に戻っていた。
机の引き出しを開ける。
奥にある小さな箱。
手を伸ばす。
今度は、引き出しを閉めなかった。
箱を取り出す。
蓋に手を置く。
けれど。
開けることはできない。
スマホが鳴る。
悠生からだった。
『今、話せる?』
蒼真は画面を見つめる。
少し迷ってから、
『無理』
と返す。
すぐに返信が来る。
『そっか』
それだけ。
蒼真はスマホを伏せる。
箱を見つめる。
そして小さく呟いた。
「……まだ、言えない」
箱は閉じたまま。
蒼真の机の上に残った。
コメント
1件
うわ、今回のエピソード、すごく胸に来ました…。幼い頃の無邪気な写真と、今の蒼真の「戻りたくない」「俺に見せるな」という言葉の温度差が痛すぎる。紬が「何があったの」と呟くシーン、あの静けさが逆に重くて。そして最後の箱と「まだ言えない」の台詞——後で絶対に回収される伏線ですよね。この距離感がどう動くのか、続きが気になります。