テラーノベル
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月曜日。
放課後の教室。
窓の外は、少しずつ暗くなっていた。
紬は机の中を整理していた。
消しゴム。
ノート。
プリント。
最後に、古い写真が一枚出てくる。
土曜日に見ていたアルバムから、いつの間にか紛れ込んでいたらしい。
三人で写っている。
幼い蒼真。
幼い紬。
そして悠生。
「それ、まだ持ってたんだ」
声がして、顔を上げる。
悠生だった。
「うん」
「懐かしいな」
悠生が写真を覗き込む。
「これ、夏祭りのときだ」
「覚えてる?」
「覚えてるよ」
悠生が笑う。
「蒼真が金魚すくいでムキになってさ」
「そうだっけ」
「取れなくて泣いてた」
「また泣いてる」
「だって悔しかったんだろ」
紬も少し笑った。
「……三人だったな」
悠生がぽつりと言う。
紬は写真を見る。
「うん」
「昔は、ずっと三人でいると思ってた」
「俺も」
悠生が写真から目を離す。
「今も三人だけどな」
「同じじゃない」
紬はそう言った。
悠生は否定しなかった。
そのとき。
教室の後ろのドアが開いた。
蒼真だった。
「まだいたのか」
「うん」
紬が答える。
蒼真の視線が写真へ落ちる。
一瞬だけ。
表情が変わった。
ほんのわずかだった。
でも紬には分かった。
「……それ」
蒼真が言う。
「うん」
紬は写真を持ったまま答える。
「捨てろとは言わない」
蒼真はそれだけ言った。
「でも」
写真から目を逸らす。
「俺の前で見るな」
「なんで?」
また同じ問い。
蒼真の顔が硬くなる。
「……頼むから」
紬は黙った。
怒鳴られたわけではない。
それなのに。
今までで一番、苦しかった。
「蒼真」
悠生が呼ぶ。
「何」
「俺が持ってる写真も、嫌?」
蒼真は少し黙った。
「……お前は別」
紬の胸が詰まる。
「なんで?」
思わず口に出る。
蒼真は答えない。
悠生も何も言わない。
教室に沈黙が落ちる。
やがて蒼真が口を開く。
「悠生は知ってるから」
紬が顔を上げる。
「……何を?」
蒼真は答えない。
悠生を見る。
悠生も蒼真を見る。
二人の間に、紬には分からない何かがある。
昔から。
自分の知らないところで。
「じゃあ、俺にも教えてよ」
紬が言った。
蒼真の顔が強張る。
「無理」
「なんで」
「……無理だから」
「それじゃ分かんない」
紬の声が震える。
「俺、ずっと何も知らない」
蒼真は黙っている。
「兄弟だからって、何でも知ってると思ってたわけじゃない。でも」
紬は写真を握る。
「俺が何をしたのかくらい教えてよ」
蒼真の表情が変わる。
「お前は何もしてない」
即答だった。
紬が言葉を失う。
「じゃあ――」
「それ以上聞くな」
蒼真の声が低くなる。
「頼むから」
それだけ言って、教室を出ていった。
扉が閉まる。
紬は写真を見つめた。
「……何もしてないなら」
声が震える。
「なんであんな顔するんだよ」
悠生は答えない。
紬が振り向く。
「悠生は知ってるんだろ」
長い沈黙。
「……全部じゃない」
「でも、何か知ってる」
悠生は目を伏せた。
「うん」
「教えて」
「できない」
「蒼真との約束?」
悠生は顔を上げた。
紬はその反応だけで分かった。
「……やっぱり」
悠生は何も言わない。
紬は写真を机に置いた。
「俺だけ知らない」
小さく呟く。
「三人だったのに」
その言葉に、悠生は何も返せなかった。
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コメント
1件
うわあ……これ、めっちゃ重いけど、すごく好きな回だった。 「三人だったのに」っていう紬の言葉が刺さるんだけど、今は三人でいても“三人だった頃”じゃないんだよね。蒼真が「悠生は知ってるから」って言ったときの空気、読んでて息が止まった。自分だけが知らないって、ほんとに苦しいと思う。 しかも蒼真が「お前は何もしてない」って言うのに、あんな顔するの、逆に怖い。何か知ってる人が“教えない”って選択するのも、また重いなあ……。 三人の関係の“ずれ”が、静かにじわじわ迫ってくる感じが本当に丁寧で、想像力が刺激される話でした。ruruhaさんの書く空気感、すごく好きです。