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「あふ、あははは! 嬉しい……。アレン様、私のこと心配してくれたんだね。うふふ、やっぱり私たちの愛は本物だわ」
瓦礫の中から立ち上がったシオリは、恍惚とした表情で泥を拭い、こちらへ歩み寄ってくる。その瞳には、狂おしいほどの親愛の情が満ちていた。
「勘違いするな。お前だから心配したわけじゃない。女を殴らない、蹴らせない。それは男として当たり前のことだ」
「いい……素敵。もっと好きになっちゃった。ねぇアレン様、早くお家に二人で帰りましょう? 服もボロボロだし…私ね、アレン様のサイズの知ってるし、買ってあるからそれを着せてあげる。」
シオリの言葉を、俺は冷徹に切り捨てた。
「一度引いて体制を立て直そうと思ったが、No.2のせいでそれも無理みたいだ。ここで決着をつけようか」
「え、えっ……!? ぼ、僕も? 僕も戦うの、アレン君!?」
カケルが情けない声を上げる。だが、俺の目的は変わらない。
こいつは、俺の過去を、そしてナンバーズの機密を知りすぎている。
「シオリ。なぜお前が俺の過去を知っているのか……その口からすべて聞き出させてもらう」
「ふふ、ダメだよアレン様。それは二人きりになってからのお楽しみ。……それに、その子、ちょっと邪魔かな」
シオリが、無造作にカケルへ視線を向ける。
「ひっ……あ、体が……! 動かないよぉ!!」
カケルの叫びが虚しく響く。
シオリは再び支配の牙を剥き、俺をもその呪縛に呑み込もうとした。
シオリが勝ち誇ったように唇を開きかけた、その時だ。
「……なぁ。ストーカーなら、少しは俺たちのことを勉強してから来いよ」
「……え?」
「No.2の能力は何だ? 見てりゃわかる、とにかく速い『高速移動』だ。……じゃあ、同じナンバーズの俺の能力が何か、お前は本当に分かってるのか?」
シオリの動きが止まる。その瞳に、初めて微かな戸惑いが生じた。
「し、知ってるよ……。えーっと、身体を強化する……パワー系でしょ?」
「ハズレだ。お粗末だな。……ストーカーならちゃんとメモっておけ。教えてやるよ」
俺は五倍に跳ね上がる心臓をなだめるように、深く息を吐いた。
「俺の能力は『生物模倣(バイオ・コピー)』。地球上のあらゆる生き物の遺伝子情報を読み込み、それを俺の身体に即座に発現させる。……簡単に言えば、俺の身体は『地球最強のキメラ』なんだよ」
「何それ……」
シオリの余裕が、初めて明確に崩れた。隣ではカケルが目を剥いて叫んでいる。
「そ、そうなの!? アレン君、そんな能力持ってたの!?」
「……あぁ。だが、俺のこの能力はどうやら『ナンバーズ計画』の最初期に作られた、試作品のようなものらしい。他の奴らと違って、使用者の肉体の負荷なんてこれっぽっちも考えられていない、最低のクソ能力だ」
「使うたび、自分の肉体へダメージも来る。……だから今まで使いたくなかったんだが、仕方ない。背に腹は代えられねぇからな」
俺は迷わず、そのカプセルを噛み砕いた。
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瞬間、血管が沸騰するような熱が全身を駆け巡る。
「……あぁ、やっぱりクソだ。……死ぬほど痛ぇ」
血管が焼き切れるような劇痛とともに、俺の左腕が、生物としての原型を失い変貌していく。
皮膚を突き破り、びろびろと蠢く無数の肉糸、イソギンチャクの触手が、毒針を隠し持った鞭となって発現する。
「……ハァ、ハァ……! まだだ……二錠目。」
左腕からせり出した無数の触手の先端に鋼をも砕くラーテルの爪が宿る。
俺は、化け物へと変貌していく己の肉体を見つめ、歪んだ笑みをシオリに向けた。
「……知ってるか。イソギンチャクには、感情なんてものはないらしい。そしてラーテルには、どんなに強い相手にも恐れず立ち向かう勇気があるらしい」
一歩、泥を跳ね上げて踏み出す。
そこにはもう、先ほどまで俺を縛り付けていた「震え」は微塵も存在しなかった。
「……つまり。俺はもう、お前に恐怖することなんてないってことだ」
支配の糸が、音を立てて千切れる。 俺の瞳に宿るのは、スーパースターとしての不敵な光だけだった。
◆
「おお……なんだ、さっきと雰囲気が違うな。」
デッドQが、顔面の傷を歪ませながら、不気味な笑みを深めた。
僕は自分の肉体に、三体の影をねじ込むように重ね合わせ、静かに答える。
「うん。……なんだか今、何でもできそうなんだ」
直後、デッドQが地面を爆ぜさせ、視界から消えるほどの速さで殴りかかってきた。
だが、今の僕にはその軌道が手に取るようにわかる。
僕は回避と同時に、デッドQの真後ろへ影を飛ばし、意識を同期させた。
「あ?」
空を切ったデッドQが、驚愕とともに振り返る。
だが、僕はもうそこにいない。
間髪入れず、僕は影を「デッドQが今立っている位置」へと飛ばし、再び同期。
「……ッ!!」
瞬間移動。
物理法則を無視した座標の上書きにより、僕はデッドQの懐、その強固な肉体の「内側」へと入り込んだ。
そのまま、僕は奴の喉元を内側から突き破るように、影を纏った手刀を突き立てた。
「ガ、ハ……っ……!? が……っ」
溢れ出す黒い血。デッドQの喉から、言葉にならない悲鳴が漏れる。
喉元を内側から突き破っていた僕の手が、再び『影』となって奴の体内から僕が先ほどまで立っていた場所へ戻った。
死と痛みを忘れたはずの怪物の額から、一筋の冷や汗が流れた。
「よし、ちゃんとイカれてる」
僕は、自分の歪んだ万能感さえも「演算」の一部として受け入れ、愉悦に瞳を細めた。
「次、もっとエグいのいくよ。……準備はいい?」
雨の路地裏と、監獄の深淵。
二人の怪物が、絶望を「蹂躙」へと塗り替えた。