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駅前の掲示板に貼られた新しいポスターは、雨上がりの空まで味方につけたように見えた。
青い照明。大きく組まれた舞台装置の完成予想図。中央で腕を組むアルヴェ。その横には、強い目をしたパルテナが立っている。題名の横には金色の文字で、オートパイロット公開上演参加決定、と踊っていた。
モルリが口を開けたまま固まる。
「……いや、強そうとかの次元じゃないんだけど」
「次元って言葉で逃げないで」
ホレが言ったが、声に勢いはなかった。
シェルターへ戻ると、グルナラが待っていた。細い指で古びた電卓を叩き、机いっぱいに紙を広げている。来るなり金の話をするところが、この人らしいとヌバーが囁いた。
「まず現実を見るわよ」
グルナラは帳簿を持ち上げた。
「照明の補修、木材、衣装直し、申請費、雑費。ぜんぶ最低額で見ても足りない。人手も足りない。しかも相手は駅前にあの規模の広告を出してる。正面から勝てるわけない」
モルリが椅子へだらりと倒れ込む。
「言い方ぁ」
「慰めが必要ならサラのところへ行って」
「まだ行ってない!」
ミゲロは黙って床へ新しい板をはめ込み、ヴィタノフは外した電球を並べていた。誰も反論しないからこそ、グルナラの現実は重い。
サベリオは入口近くへ立ち、駅前の方角を見ていた。
勝てるわけがない。
その言葉は、誰かに言われる前から、自分の中にいた。失敗の記憶は、だいたいそうやって先回りする。
そこへ、石段を下りる軽い足音と、紙袋のがさがさした音が響いた。
「ほら、食え」
ダニエロだった。橋の近くのコンビニ店主は、湯気の立つ肉まんの袋を机へ置くと、それだけで帰りそうな顔をした。
モルリがすぐに飛びつく。
「店、いいの?」
「夕方の一番暇な時間だ。今ならフライヤーも機嫌がいい」
ヌバーは袋をのぞき込んだ。
「差し入れの量が、もう親戚なんよ」
「近所のうるさい奴らを静かにしたいだけだ」
ダニエロはそう言ってから、駅前ポスターの話を聞いたのだろう、ちらりとサベリオを見る。
「勝てるわけない顔してるな」
サベリオは肉まんを受け取る手を止めた。
「実際そうだろ」
「真正面ならな」
ダニエロは壁へ背を預けた。
「でかい店に個人店が勝つ時、品数じゃ勝たねえ。夜中でも顔を覚えてるとか、風邪引いた客におかゆすすめるとか、そういうので残る。勝ち方を変えりゃいい」
その言葉を聞いても、場の重さはすぐには消えなかった。
だが、隅でしゃがんでいたジャスパートだけが、肉まんにも目をくれずに床へ耳を近づけていた。
「音なら勝てる」
皆が一斉に振り向く。
ジャスパートは顔も上げず、もう一度だけ言った。
「ここ、まだ鳴ってる」