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#和風ファンタジー
#伝奇
「えっと、これは……シノノメさん――、でええんかな?」
達筆な筆致で『東雲家』と三文字書かれた木製の表札を掲げたそれは、お屋敷と呼ぶにふさわしい立派な門構えと古民家然としながらも旧家を思わせるたたずまいを備えた大きな家だった。
だけど、この家が目に入った瞬間、何とも言えない違和感をうちは覚えていた。
手入れが行き届いていないのか、広い敷地を囲む生垣はあちこち蜘蛛の巣が張られていたし、文の向こうに見える庭は雑草が長く伸びて生い茂り、まるで小規模なジャングルのようだった。
「なぁ、アンディー。……ここ、ホンマにあんたのおうち?」
「はい! アンディーのおうちです!」
思わず振り返り、そう尋ねたうちにアンディーが弾けるような笑顔を向ける。
「キミカちゃんのおかげでアンディー、おうちに帰って来れました! アンディーはとても嬉しいです!」
弾んだ声を出しながら、スキップを踏むような歩調で門扉をすり抜け、玄関の前でアンディーはその姿を煙のようにかき消していた。
「ちょっ、待っ……」
怪異ならではの不規則な動きにうちは慌てるが、アンディーのように勝手にあがり込むわけにもいかない。
少しためらったがうちはインターフォンのボタンを押していた。
十数秒ほどの間があって――
「……はい。どちら様?」
インターフォン越しに聞こえて来たのはしわがれた男の人の声。
「あ、あのっ、うち、塚森って言います」
うわずった声で、だけど、ここに来るまでに頭の中で組み立てていた口実をうちは口にする。
「実は、あの……道端でワンちゃんの首輪、拾いまして。それでちょっと調べてみたら、ここの住所が書かれていましたから。お届けにあがった方がいいのかな、と思いまして……」
そう言いながら、自然とうちは肩から下げたポーチに手をかけていた
「えっ、犬の首輪?」
驚いたように男の人が息を飲むのが聞こえた。
水を打ったような沈黙が流れ――
「……それ、本当ですか?」
「えっ」
「本当にそれ、ウチの犬の首輪ですか?」
「え、ええ。ここの……お宅の住所が書いてありますし、間違いないと思うんですけど……」
驚くほど平たんな男の人の声にうちは狼狽していた。
何やろう、この違和感……。
何だか胸がザワザワする。
と、インターフォンの向こう側で男の人のため息が聞こえ、
「……わかりました。……とにかく、一度おあがりください」
「は、はい……」
小さく頭を下げ、うちはアンディーが消えた玄関へと向かった。
ドアを開け、玄関の内側で靴を脱ぐ。
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