二人はパンケーキを食べながら話を続ける。
そこで葉月が思い出したように言った。
「そういえば『浮気をしない人』って入れるのを忘れた!」
すると千尋は澄ました顔で言う。
「それは条件云々以前に当たり前の事だから入れなくてもいいわ。私も浮気されて離婚した身だからさー、そこはじっくり観察しようと思ってる。浮気症の人間ってDNAで決まってるって言うじゃない? だから、付き合う前にきちんと見分けないとね」
「なるほど……でも見分けられるかなぁ?」
「大丈夫よ。合コンの時にズバリ聞いたらいいのよ。浮気した事ありますかーってね」
「なるほど……」
葉月は納得していた。
そこで葉月が書いた十の条件を見ながら千尋が言った。
「①の性格が穏やかな人と②の経済観念がしっかりした人っていうのはわかるけど、③の年相応にお金を持っている人っていうのはどういう意味?」
「ああ、それはうちのお金を当てにされたら困るっていう事。私が父からもらった家やアパートはそのまま航太郎に引き継ぎたいと思っているから」
「なるほど、そういう事か。女が持っている資産を使い込まない男っていうのは確かに重要かもね」
「そう。なんか今女の預金を当てにする男って多いらしいよ」
「そういう奴はヤバいよねー。そんなのが近付いて来たら全力で逃げないと! で、⑦の端正な顔立ちと⑧のガッチリタイプ……ププッ、葉月は昔からタイプが変わってないよねー」
千尋はクスクスと笑いが止まらない。
「ビジュアルってやっぱり大事だと思うよ。自分の信念は何が何でも曲げちゃダメって、結婚して思ったから」
「アハッ! 確かに啓介さんはまあまあイケメンだったけど顔が薄い系だったもんね。葉月は昔から濃い顔が好きだったのにさ」
「うん。毎日見る顔だもん、そこは妥協しちゃ駄目だってわかったわ。顔が好みなら多少の事は我慢出来そうだし」
「アハハ、確かに~。で、⑩のどんな時でもきちんと向き合い話をしてくれる人っていうのは?」
「ああそれは、啓介が真逆のタイプだったからかなぁ? 都合が悪いとすぐムッして逃げちゃうし、航太郎の事を話したくてもきちんと向き合ってくれなかったしね。やっぱさ、恋人や夫婦になるんだったら会話は大事だなーって思った」
「そっかぁ。啓介さんって外面良かったからそんな風には見えなかったけど、家の中ではそうだったんだね」
「うん。それでも結婚して数年はまだマシな方だったけど、その後から会話が激減したかな。今思えば、その頃から浮気してたんだろうね」
「自分にやましい事があって葉月と向き合えなかったんだろうね」
「そうだと思う。だから今度もしパートナーが出来たら、良い事も悪い事も全て包み隠さず話せる関係がいいなって思った」
「それわかるなぁ。女ってさぁ、どうでもいい事でもちゃんと聞いて欲しい生き物だよね? 私もその条件追加しよっかなー」
「アハハッ、じゃあ『マッチョ』でも削る?」
「うーーー悩む―ーー」
千尋が本当に悩み始めたのを見て、葉月は思わず笑った。
笑いながら啓介との結婚生活を思い出す。
葉月は大学を卒業後、父方の親戚が経営する宝飾店へ就職する予定でいた。
しかしその前に啓介と出逢ってすぐに妊娠したので、葉月は就職せずに啓介と結婚した。
結婚後すぐに子供が生まれたので、葉月はずっと子育てに忙殺されていた。
夫のパイロットという職業は、タイトなスケジュールの中で厳しい体調管理が求められる。
もちろん、子供の夜泣きは夫の睡眠に支障をきたすので、夫婦はすぐに別々の寝室で寝るようになった。
子育てはほぼワンオペ状態であり、夫との間にも徐々に溝ができていった。それでも息子の為にと思い、葉月は色々と我慢をし、良い妻であろうと心掛けていた。
しかし航太郎が幼稚園に通い始めた頃から、啓介の周りに女の影がちらつき始めた。
勘の鋭い葉月はすぐにそれに気付いたが、子供の為にと思い気付かないふりを続けていた。
葉月の父親がまだ元気だった頃、父が交通事故にあい救急車で運ばれた。
その日はちょうど啓介が休日で、一人で買い物に出かけていた。
父の病院へ駆け付けようと思っていた葉月は、息子の面倒を頼むために夫に電話をかけた。
しかし何度電話しても繋がらなかった。
仕方なくその日葉月は、千尋に航太郎を預けた。
後で知ったことだが、あの日啓介と連絡が取れなかったのは、啓介が愛人とホテルへ行っていたからだった。
それがわかったのは、突如啓介の浮気相手が葉月に会いに来たからだ。
愛人は啓介がいない日を狙って自宅まで押しかけて来た。
彼女は啓介と同じ会社のCAで、モデルのようにスタイルの良い美人だった。
「啓介さんと別れて下さい! 彼は結婚当初からあなたの事なんて愛していなかったの。結婚は子供が出来たから仕方なくしたって言ってたわ。だからお願い、もう彼を自由にしてあげて!」
その後は離婚へ向けてまっしぐらだった。
父と千尋がいてくれたから、葉月はなんとかその難局を乗り越えられた。
幸い、航太郎の養育費は毎月きちんと受け取っている。世間一般の平均よりも少し多い額だ。それは啓介の心にほんの少し残っている、息子に対する父親としての気持ちなのかもしれない。
離婚の際は弁護士をきちんと立てて、夫からだけでなく愛人からも慰謝料をもらった。もちろん夫の財産もしっかり半分もらった。
夫が当時持っていたマンションは、土地価格が高騰していた時に売ったので、葉月にはかなりまとまった金額が手に入った。この資金は、将来アパートが老朽化した時の建て替え資金として貯金している。
離婚後は、啓介のたっての希望で、二ヶ月に一度、父子で食事をする機会を設けている。
夫は養育費を払っているのだから、父親としての権利とプライドだけは保ちたかったのだろう。
結婚していた時には、息子を顧みる事などほぼなかったのにと葉月は半ば呆れている。
それでも離婚当初は、あんな父親でも恋しかったのか、航太郎は喜んで父に会いに行っていたが、最近は面倒臭そうにしている。
思春期に入り、両親が離婚した理由になんとなく気付いているのだろう。
その時千尋が言った。
「その十枚のメモを半分に折って見えないようにして」
「え?」
「これからが心理ゲームよ」
「わかった」
葉月はパートナーに求める条件を書いた紙を、全て二つ折りにし、文字が見えないようにする。
すると千尋がそれをかき混ぜた。
「じゃあ葉月、この中から二枚選んで開いてみて」
「え? 見ていいの?」
「うん。で、その二つのうち重要な方を残してみて」
「わかった」
葉月は最初の二枚を選んだ。
「えっと、『経済観念がしっかりしている人』と『年相応にお金を持ってる人』が出たよ?」
「じゃあ大事な方を残して」
そこで葉月は悩む。
(経済観念があれば貯金もちゃんとしてるだろうから、捨てるならこっちかな?)
葉月は『年相応にお金を持っている人』の方を捨てた。
「じゃあ新たにもう一枚引いて、手元にある一枚と比べてみて。で、また重要な方を残してね。これをメモがなくなるまで繰り返してみて」
葉月は言われた通りに続けた。新しいメモを見る度に、葉月は頭を捻る。
そして最後に一枚のメモが葉月の手に残った。
「葉月が一番求めている条件は『どんな時でもきちんと向き合い話をしてくれる人』って事なのよ」
葉月は驚いていた。言われてみると、なんとなく当たっているような気がする。
もしもう一度誰かと生きていくとしたら、楽しいこと、悲しいこと、どんなことでもきちんと向き合って話を聞いてくれるパートナーが欲しかった。
(フフッ……そうだったんだ)
自分が求めているものが明確になった葉月は、少しスッキリしたような気がした。
「どう? 意外と自分では気付いていなかった結果になったでしょう?」
「うん、そうかも! ちなみに千尋の結果は?」
「私はねぇ、『年をとってもラブラブでいられる人』でしたーーー!」
「えーーっ! 意外! 姉御肌の千尋がまさかのイチャイチャだなんて! なんかこの心理ゲームって本人も気付いていない深層心理を暴いちゃうんだね」
「うん。だから葉月、その目標に向かってレッツゴーだよ! じゃあ早速合コン企画するからね!」
「よっしゃ! 私もそろそろ前に進むか―っ!」
葉月は笑顔で頷いた。
コメント
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葉月さんの どんな時も向き合える人 も良いし 千尋さんの歳をとってもラブラブな人もいいな❤️2人にこれから良い出会いがある事祈ってます
心理テスト、面白いですね😊一番に 相手に求める条件、スゴく納得です😎👍️💕 合コン、賢太郎さんも参加するのかな⁉️ 二人とも素敵なパートナーが見つかりますように....🍀✨
深層心理テスト もっと早くに知ってたら〜 今更…… でも、葉月さんはこれからだから、当てはまる素敵な人に出会ってほしい😊 (素敵な人に出会うのわかってるんだけどね) CAさん、素敵な人も多いのに、元夫の不倫相手は残念な人だわ。