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授業中。隼人は大地のシャーペンを奪い、片手でくるくる回して挑発する。
「おい返せって! それ俺の唯一まともに芯入ってるやつなんだよ!」
「へぇ? じゃあ今日からこれは俺のだな」
「ちょっ、ひどっ! 先生ー! 人のペンが奪われてまーす!」
クラスの笑いをさらいながら、相変わらずの騒ぎを繰り広げる二人。
その斜め後ろで、萌絵は静かにノートを開いていた。
だが書いているのは授業内容ではない。
(はい来たー! ペン取りイベント! 完全に「好きな子の持ち物をからかって奪う」パターンじゃん!)
彼女の隣の席では、涼が教科書を開いたままペンを止め、無表情で一言。
「……隼人、あれ絶対返す気ないな。独占欲丸出し」
萌絵はガタッと振り向く。
「えっ……ちょっ……涼! 気づいてたの!?」
「気づくもなにも。見ればわかる」
その一瞬の会話さえ、前の二人には届かない。
隼人は大地に「取り返せるもんならやってみろ」とペンをひらひらさせ、大地は「絶対返してもらうからな!」と机の上に身を乗り出している。
萌絵は机の下で拳を握り、目を輝かせる。
「だよね!? やっぱ独占欲だよね!? “俺のだ”って言ってるようなもんだよね!?」
「しかも大地の必死さ。完全に“好きな子の手から取り返したい”構図」
「……やばっ。尊い……!」
二人は小声で畳みかけるように囁き合いながら、まるでスポーツ実況の解説者とアナウンサー。
だがその声量は、周りには聞こえないほど小さい。
他のクラスメイトから見れば、ただ静かにノートを取っている真面目な二人。
隼人と大地に至っては、後ろでそんな熱狂的実況が行われているなんて夢にも思っていない。
「よし、決まりだな」
涼はさらりと結論を述べる。
「隼人=攻め。大地=受け。鉄板」
「うわっ……腐男子発表入った……!」
萌絵は震えるほど感動していた。
その頃、当の大地は――
「隼人のケチー! そのペン俺の嫁だぞ!」
「ペンを嫁にすんなアホ!」
全力で漫才を続けていた。