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およそ一時間に及ぶ卓球対決を終えた後、私と小守は旅館の室内温泉に入っていた。
ちゃぷん、ぽちゃん、とお湯が静かに波打ち身体に当たる。
卓球で疲れた身体に39℃の温泉が沁みる。
温泉の看板には塩化物泉と書いてある。
どうりでほんのりと塩の匂いがするわけだ。
「ふぃー、やっぱり温泉は何度入ってもいいですねぇ」
「だなー」
小守とともに肩まで温泉に浸かりながら、思わず気の抜けた声が出る。
温泉に浸かりながら自分の左腕をゆっくりと撫でる。
温泉に二度も入ったものだから肌はすっかりつやつやぷるぷるになっている。
「卓球対決も最後に私が勝ったし、今夜はぐっすり眠れそうですー」
私がんーっと背伸びすると、小守がむっとした表情を見せる。
「バーカ、オレの方が多く勝ったんだからオレの勝ちだろ。7勝3敗オレの勝ち。クソザコドッペルゲンガーは大人しく敗けを認めやがれ」
「は?何言ってんですか?最後に勝った方が勝ちに決まってるでしょ。スポーツ漫画でもラブコメ漫画でもそうじゃないですか。はい論破私の勝ちです何で負けたか明日までに考えといてくださいね」
私が早口で反論する。
「なんだと」「なんですか」
小守とおでこを突き合わせ睨み合う。
「わかった、そこまで言うならサウナで勝負だ」
「望むところです」
そんなこんなで私と小守はサウナルームへと向かった。
◆◇◆
サウナ室に漂う檜の匂い。
遠赤外線によってほどよく熱されて揺らぐ空気。
私はサウナについてるテレビの正面に陣取り、涼しい顔で汗を流す。
生まれてはじめてのサウナ、ワクワクしないと言ったら嘘になる。
私はおねぇちゃんの記憶や知識をある程度引き継いで生まれてきたけど、知っているのと実際に体験するのでは雲泥の差があるのだ。
ウンディーネの差があると言っても過言ではない。
「言っとくけど全然うまいこと言えてねぇからな」
タオルを身体に巻き付け、汗だくの小守がぜーぜー言いながら私の方を見る。
「おやおやぁ?あんだけ自信満々だったのにもうしんどそうじゃないですかぁ?私に歯向かおうだなんて千年早かったんじゃないですかぁ?」
「うっせぇ。だいたい人間共はなんでこんなクソ熱いだけのモンをありがたがるんだ?」
身体に巻いたタオルをバタバタさせながら小守が舌を出す。
「なんでもサウナに入った後水風呂に入ると《《ととのう》》らしいですよ」
「トトノウぅ?なんだそりゃ呪文か?」
「さぁ?」
サウナに入ってから10分、流石にちょっと暑くなってきたかも。気を紛らわせるために
サウナ室の小さなテレビを見る。
テレビには《劇場版魔法少女マカロン》のCMが流れている。キラキラした音楽と映像とともに可愛らしい魔法少女達が強大な敵と戦っている。
おねぇちゃん達が今日見るはずだった映画のコマーシャルを見て、私は小さく溜め息をついた。
「『私が拉致られなかったら、今頃おねぇちゃん達は楽しく映画デートしてたはずなのに』ってか?」
小守が、私の心を見透かしたような台詞を吐き、私の頭に軽くチョップした。
「あほ、なんでもかんでも自分のせいって思ってんじゃねぇ。今回に関しちゃ、お前は100%被害者だろ?」
ぶっきらぼうに小守が言う。
小守の手を軽く払う。
「……分かってますよそのぐらい」
それでも、考えずにはいられない。
私はおねぇちゃんの呪いを解く妨げになっているんじゃないか?
そもそも私を召喚さえしなければ、おねぇちゃんは死の呪いを受けずに済むんじゃないか?
私はどこまでいってもドッペルゲンガー、人を殺す化物なんじゃないか……と
俯く私の頬を、小守は両手でむぎゅっと挟んだ。
「くよくよしてんじゃねぇ!!ほら水風呂あびっぞ!!」
「えっ、勝負は」「知るか、ほら行くぞ」
そう言って小守は私をサウナ室から引っ張り出した。
◆◇◆
シャワーで汗を流した後、水風呂に入る。、
サウナで火照った身体が水風呂でしゃきっと冷やされて、たまらなく心地いい。
「これが……ととのう」
「サウナすげー、こんなんほぼほぼ魔法だろ」
私達は生まれてはじめての感覚に内震えた。
「おねぇちゃんと楓子さんも誘えばよかったですねー」
「だなー」
お風呂から上がり、宿泊部屋に戻る。
部屋では楓子さんとおねぇちゃんが手を繋いだまま静かに佇んでいた。
なんでだろう?
納得していたはずなのに。
おねぇちゃんに『楓子さんと付き合ってください』と頼んだのは私なのに。
おねぇちゃんと楓子さんが手を繋ぐ姿を見て、ひどく心がざわついた。
「ママー!!サウナめっちゃ気持ちよかったぜー!!」
空気の読めない小守がそう言って楓子さんに抱きつく。
「おかえり、小守、天国美」
楓子さんがおねぇちゃんから手を離し、小守の頭を撫でる。
私は大きく息を吸い込んで、
「見てくださいこのつやぷるボディ!!ただの美少女がパーフェクトな美少女に生まれ変わりましたよ!!」
と、セクシーポーズをしておどけてみせた。
コメント
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サウナ対決のドタバタが楽しいおまけ回なのに、最後の「手を繋ぐ姿を見てざわついた」がグッときました。小守の「お前は100%被害者だろ」という言葉が効いてますね。視点は小守なのに天国美の心の揺れがちゃんと伝わってくる、この構成が好きです。