テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
午後の光が穏やかに差し込む街角、二人は歩きながらアイスクリームを舐めていた。
「……ここのバニラ、濃厚だな」
日下部が少し大きめの声で言う。
「うん、甘すぎずちょうどいい」
遥は小さく笑った。自分がそう感じたことを口にするのは珍しかった。
「お前、あんまり甘すぎるの好きじゃないんだっけ?」
日下部がアイスを舐めながら問いかける。
「いや、たまになら悪くねー」
遥は目を細め、少し照れくさそうに視線をそらす。
日下部はその仕草に気づいて、少し胸が高鳴るのを感じた。
途中の公園でベンチに腰かける。二人の間には言葉少なに、しかし気まずさはない空気が漂う。
「……遠くに行くのも悪くないな」
遥がぽつり。
「遠くって、どのくらい?」
日下部は不器用に首をかしげる。
「……まあ、今日くらいなら十分」
遥は口元を軽く上げ、照れ隠しのように小さくアイスをかじる。
日下部は少し間を置いてから、ふと訊ねる。
「……お前、こういう時間、普段あんまりないんだろ?」
「……まあな」
遥は視線を前に向け、言葉を選ぶ。
「家とか学校とか、ずっと気を張ってるから……こういうの、落ち着くな」
日下部は小さく息をつき、安心したように頷く。
「それなら、また来よう。二人で」
「……別に、悪くない」
遥は少し顔を赤らめながらも、言葉に笑みを混ぜる。
夕暮れが近づき、街の光がオレンジ色に染まる。二人は歩きながら、手を自然に触れさせる距離で歩く。
「……あのさ」
日下部がぎこちなく口を開く。
「……お前と一緒にいると、なんか落ち着く」
遥は一瞬黙り、少し照れた笑いを漏らす。
「……俺もだな、変な話だけど」
互いの距離感がぎこちなくも柔らかく、言葉少なでも心が通う時間。
日下部は内心で、遥の笑顔をもっと引き出したいと思う。
遥もまた、無意識のうちに日下部の存在が心地よく、自分が少しだけ素直になれることを感じていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!