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くつしたのあな
317
放課後。
教室は半分くらい人が残っている。
いつもと同じ。
でも、同じじゃない。
机に座る。
ノートを開く。
ページが一枚、足りない。
昨日やったところだけ、綺麗に抜けている。
手が止まる。
「どうしたの?」
横から声。
軽い。
「……ページ、なくて」
言う。
「また?」
すぐ返る。
笑いが混じる。
「ちゃんと管理しろよ」
別の声。
「困るんだけど」
言われる。
“困る”
その言葉が、少しだけ引っかかる。
でも、何も言えない。
言えば、また何かになる。
「ほら」
ノートを指される。
「ここ」
ページの流れが途切れている。
「これじゃ分かんないじゃん」
当然みたいに言われる。
自分が悪い、みたいに。
「……ごめん」
口に出る。
すぐに。
それが一番早い。
笑いが軽く広がる。
それで終わる。
一つは。
移動。
体育館。
グループで動く。
自分の担当の紙を出す。
内容が違う。
昨日書いたものじゃない。
明らかに。
「え?」
思わず声が出る。
「何それ」
周りが見る。
「それ、お前のやつ?」
聞かれる。
「違う、こんなんじゃなくて」
言う。
でも、
「いや出したのそれじゃん」
即座に返る。
「昨日見たし」
誰かが言う。
笑い。
「適当すぎ」
軽く言われる。
「やる気ないならやめろよ」
その一言で、流れが決まる。
否定しようとする。
でも、止まる。
止まった瞬間、
「ほら」
指をさされる。
「言い訳考えてる」
笑い。
何も言っていないのに。
もう、そういう扱いになる。
「……違う」
小さく言う。
「何が?」
すぐ返る。
詰まる。
何を言っても、同じになる。
分かっている。
「……ごめん」
また出る。
それが一番、早い。
教室に戻る。
靴がない。
探す。
見つからない。
「どうしたの?」
また同じ声。
軽い。
「……靴、なくて」
言う。
「また?」
笑い。
「どんだけ無くすの?」
軽く言われる。
周りも笑う。
“また”
繋がる。
全部。
最初からそうだったみたいに。
「ちゃんとしろよ」
当然みたいに言われる。
否定できない。
否定しても、同じになる。
分かっている。
「……うん」
短く返す。
「なあ」
呼ばれる。
囲まれる。
距離が近い。
「最近さ」
軽い声。
「ちょっとやばくね?」
何が、とは言わない。
でも、全部含まれている。
「大丈夫?」
続く。
“心配”の形。
でも、逃げ場はない。
「……大丈夫」
答える。
「ほんと?」
すぐ返る。
「なんかさ」
少し間。
「周りに迷惑かけてるよ?」
言われる。
静かに。
でも、強い。
「ノートもそうだし」
「グループのやつもそうだし」
「靴もそうだし」
並べられる。
全部、自分の“ミス”として。
繋がる。
一つの線になる。
「ちゃんとしよ?」
優しい声。
でも、断れない。
「……どうすればいいの」
聞いてしまう。
その瞬間、少しだけ笑いが漏れる。
「それだよ」
言われる。
「自分で考えろって」
でも、考えても意味がない。
さっきまでで分かっている。
何を選んでも、同じになる。
「ほら」
誰かが言う。
「また空気重くなった」
周りが反応する。
「あーあ」
ため息。
成立する。
原因になる。
何もしていないのに。
そのあとも、続く。
何かが無くなる。
何かが変わる。
何かが“自分のせい”になる。
一つ一つは小さい。
でも、全部繋がる。
逃げ場がない。
気づく。
遅れて。
これは、誰か一人じゃない。
全体で回っている。
誰がやっているかは、もう意味がない。
止める場所もない。
教師は見る。
でも、見ない。
周りは笑う。
でも、普通に戻る。
全部が、日常の中にある。
「なあ」
最後に声。
軽い。
「なんでそんなことになるの?」
同じ問い。
でも、もう違う。
答えは出ない。
出せない。
「……分からない」
口に出る。
それしかない。
少しの沈黙。
そのあと、
「だよな」
軽く返る。
笑い。
「だからだよ」
その一言で、全部が終わる。
理由が、逆転する。
“できないからこうなる”んじゃない。
“こう扱われるから、できなくなる”
でも、それは言葉にならない。
言ったところで、意味がない。
遥は座る。
何も変わっていない教室で。
いつも通りの空気の中で。
ただ一つだけ、はっきりしている。
ここでは、何をしても同じになる。
何もしなくても、同じになる。
理由は後でいい。
順番も関係ない。
最初から、“そういうもの”として扱われている。
それだけが、ずっと続いている。
コメント
1件
読了しました……このエピソード、すごく胸が詰まりました。特に「理由が逆転する」って一文、ぐさりと来ました。できなくて責められるんじゃなくて、そう扱われるからできなくなる——この循環の描き方が、もう日常の空気そのもので。ノートのページも、靴も、グループの書類も、どれも小さなことなのに全部繋がって逃げ場をなくしていく感じ、息が苦しくなりました。遥の「……うん」「……ごめん」が、何も言えなくなる様子が痛いほど伝わってきます。ruruhaさん、この居心地の悪さを日常の温度で書けるの、本当にすごいです。続き、遥がどうなっていくのか気になります……