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山小屋を出てから半日ほど歩いたころだった。
昼前に、小さな町へ着いた。
石造りの建物が並んでいる。
大きくはないが、前の町より人が多かった。
門の横に掲示板があった。
紙が何枚も貼られている。
その前でフィルが止まった。
「これは……!」
嫌な予感がした。
フィルは一枚の紙を指差した。
「見てください!」
陽和は近づいた。
紙にはこう書かれていた。
勇者様来訪
ゴブリン討伐成功
陽和は言った。
「討伐したのはレオルです」
レオルは首を振った。
「勇者様の戦いです」
違うと思う。
ミナが紙を見た。
「続きがあるわ」
下に文章があった。
勇者様は敵の刃を受け止め、
微動だにせず立ち続けた
陽和は言った。
「転んでました」
フィルが言った。
「表現の問題です!」
さらに書いてあった。
その場の空気は聖なる温もりに満ち、
魔物は恐れをなした
ミナが言った。
「恐れたのは火球よ」
フィルは言った。
「勇者様がいなければ撃てませんでした!」
意味が分からない。
さらに下。
祝福の力は広がり、
周囲数十メートルに及ぶ
陽和は言った。
「数十メートル?」
ミナが言った。
「増えてるわね」
フィルが言った。
「記録は進化します!」
危険な発言だった。
レオルが言った。
「勇者様の偉業が広まっています」
陽和は言った。
「偉業ですか」
紙の一番下に小さく書いてあった。
寒冷地において特に有効
それは合っていた。
そこだけ正確だった。
町の人が話しかけてきた。
「勇者様ですよね」
陽和は言った。
「候補です」
男は言った。
「いやいや」
笑う。
「もう有名ですよ」
陽和は言った。
「そうですか」
男は言った。
「魔物が近寄らないそうですね」
陽和は言った。
「来ましたよ」
男は少し考えた。
「小さいのは来るでしょう」
基準が曖昧だった。
フィルが胸を張った。
「勇者様の祝福は偉大です!」
ミナが言った。
「話が大きくなる速度がすごいわね」
レオルは言った。
「人々に希望を与えています」
陽和は掲示板を見た。
紙が揺れていた。
少しだけ誇張されていた。
いや、かなりだった。
それでも完全に間違いでもなかった。
微妙なところだった。
歩き出す。
掲示板が遠ざかる。
ミナが言った。
「そのうち一人で魔王倒したことになるわね」
陽和は言った。
「やめてください」
フィルが言った。
「いずれは!」
怖かった。
レオルが言った。
「伝説とはそういうものです」
陽和は言った。
「そうなんですか」
レオルはうなずいた。
「はい」
確信していた。
陽和は歩いた。
暖かかった。
少しだけ。
どうやら伝説というものは、
本当の出来事より、
少しだけ暖かく語られるらしかった。