テラーノベル
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#デートDV
#幼なじみ
#恋愛
諒が仕事から帰って来たのは、ちょうど夕食の支度が終わった時だった。
リビングに入って来た諒を、私たち皆で出迎える。
諒は早速凛と栞に礼を言う。
「二人とも、今日は瑞月の引っ越しを手伝ってくれてありがとな。今度改めて礼をするよ」
凛と栞は顔を見合わせて笑う。
「瑞月にも言われたけど、お礼なんていらないよ。ねぇ、凛ちゃん?」
「そうそう。これからもずっと瑞月ちゃんを大切にしてくれれば、それで十分よ。ね、栞ちゃん?」
「凛ちゃんの言う通り」
栞は大きく頷いてから、お腹の辺りを手でさする。
「とにかくご飯にしようよ。お腹減っちゃった」
「諒ちゃん、ワイン、少しくらい飲んでも平気?引っ越し祝いに、栞が買って来てくれたのよ」
「へぇ。お前にしては気が利くじゃないか。ありがとな」
「素直にありがとうだけでいいのに、ひと言多いところは、やっぱり変わらないんだねぇ」
栞は肩をすくめて諒を軽く睨んだ。
彼はそれを軽くあしらう。
「性格はそう簡単には変わらないんだよ」
私は苦笑しながら二人の会話に割って入る。
「二人が相変わらず仲がいいのは分かったから。諒ちゃん、早く着替えておいでよ」
私に促されて諒はリビングを出て行った。
その後ろ姿を見送ってから、私は凛と栞に声をかける。
「二人とも、好きな席に座って。今、ワイン開けるね」
カウンターの上にボトルを置いてコルクを開け終えたところに、ラフな部屋着に着替えた諒が戻ってきた。空いている席に座り、私を呼ぶ。
「瑞月も早くこっちに座りな」
「うん、今行く」
皆の元へ戻った私は、ワインボトルをテーブルの上に置いた。あえてか、それともたまたまか、諒の隣が空いている。そこに腰を下ろそうとして、その前に凛と栞に改めて礼を告げる。
「二人とも、今日は手伝ってくれて、本当にありがとうございました」
「どういたしまして。他ならぬ瑞月ちゃんの引っ越しだもの。手伝うのは当然よ」
従兄は言いながら、いつの間にか手にしていたボトルから私たちのグラスにワインを注ぐ。
栞はグラスを手に持ち、目の高さに掲げる。
「瑞月の引っ越し、おめでとう!」
栞の声を合図に私たちは乾杯し、早速料理に手を伸ばした。
懐かしい思い出話に花が咲き、楽しいひとときを過ごしていたが、頃合いを見計らって凛と栞がタクシーを呼ぶ。しばらくたってから、そろそろ車が到着するはずだと言って、二人は玄関に向かった。諒もまた、二人を見送って来ると言って、外に出て行った。
リビングに戻った私は腰に手を当てて考えた。
二人のおかげで、後片付けの必要がない。寝る時間まではまだ間がある。せめて洋服の入った段ボール箱くらいは開けておこうと考えて、荷物を運び入れてもらった部屋に足を向けた。以前そこは栞の部屋だったが、今は私の部屋として使っている。諒が顔をのぞかせたのは、箱の一つに手をかけた時だった。
「ただいま」
「お帰りなさい」
「二人とも、機嫌よく帰って行ったよ。ところでまさかとは思うけど、これから荷解きするわけじゃないよな?今日は疲れただろう?ゆっくりすれば?」
「そんなに疲れてもいないよ。だって業者さんに頼んだし、お掃除は凛ちゃんと一緒にやったしね」
「だけど、今日はわざわざ晩飯も用意してくれたんだろ?」
「昨日から下準備してたし、凛ちゃんが手伝ってくれたから、実はたいしてやってないのよね」
「ふぅん……。それなら一緒に風呂に入らないか」
「え、お風呂……」
躊躇する私に諒はにやりと笑う。
「もう一緒に入ってるだろ。ホテルに泊まった日」
「だってあれは特別だったから……」
一度は経験済みではあるが、私にとってはまだまだハードルが高いのだ。
「ほら、諒ちゃんも疲れてるだろうから、一人で入った方がゆっくりできるよ」
「俺は瑞月と一緒に入ってもゆっくりできるよ。というか、お前をここに一人にしたら、一箱が二箱、二箱が三箱って、荷解きの手が止まらなくなりそうだからな」
諒は苦笑を浮かべながら私の傍までやって来た。
あれよあれよという間に、私は彼に抱き抱えられてしまい、そのまま浴室へと連行されてしまった。
慣れるにはまだまだ時間がかかりそうな恥ずかしい入浴を終えて、私は今、ベッドの上で諒の腕の中にいる。
「本当の意味で、ようやく今日からここが、お前の帰る部屋になったんだな」
頭の上で聞こえる諒の声はわずかに震えていた。
「諒ちゃん、泣いてるの?」
そっと訊ねる私を彼は抱き締める。
「泣いてはいないけど、泣きたいくらい嬉しくて、感動してる」
諒のキスが顔にいくつも落ちてきて、くすぐったい。私は首をすくめて身じろぎした。
諒は私を解放し、宣言するかのように言う。
「年内の早いうちに結婚式を挙げよう。なんなら入籍が先でもいいな」
「私はどっちでもいいよ。それにしても、やっぱり不思議」
彼の胸に頬を寄せて、私はつぶやく。
「私、本当に諒ちゃんの奥さんになるんだね。凛ちゃんも栞も、諒ちゃんの気持ちにだいぶ前から気づいていたんだよね。それなのに、私だけが全然気づいていなかったなんてね」
「俺もはっきりと伝えたことがなかったから、仕方ないっちゃ仕方ないんだけどね。でも、お前が俺の気持ちを受け入れてくれて、本当に良かった。この先もずっと、俺はお前を離すつもりはないからな。そのつもりでいろよ」
諒の言葉が耳に甘く響き、胸がいっぱいになった。私の目尻から涙が伝い落ちる。
「どうして泣くんだ?」
諒は濡れた私の目元にそっと触れた。
その手の上に自分の手を重ね、私は彼の目を見つめて微笑む。
「諒ちゃんの気持ちが、どうしようもなく嬉しすぎるから」
彼の腕の中にいることの幸せを噛みしめながら、私は彼の耳に囁く。
私もあなたから離れるつもりはないから――。
彼の瞳が優しく揺れる。
「瑞月、愛してる」
諒は想いのすべてを余さず伝えようとするかのように、私の上に次々と優しく、けれど激しいキスを落としていった。
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