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I am 壁 @自給自足
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#だてなべ
ゆー
4
放課後。
教室には、もうほとんど人がいなかった。
紬は自分の席に座ったまま、帰る準備をしていた。
鞄に教科書を入れる。
その手が止まる。
昨日、蒼真から聞いたこと。
昔のこと。
悠生が知っていたこと。
そして。
自分だけが何も知らなかったこと。
「紬」
顔を上げる。
悠生が教室の入口に立っていた。
「帰らないの?」
「帰る」
「一緒に行こう」
「……うん」
二人で教室を出る。
廊下を歩く。
しばらく、どちらも話さなかった。
校門を出たところで、紬が口を開く。
「悠生」
「ん?」
「蒼真のこと、好きなんだよね」
悠生の足が止まった。
紬も止まる。
しばらく沈黙が続く。
「……誰から聞いた?」
「誰からも」
「じゃあ」
「分かるよ」
紬は笑おうとした。
「ずっと見てたじゃん」
悠生は何も言わない。
「昔から」
「……うん」
「蒼真が笑ったら嬉しそうだったし」
「……うん」
「俺が話してても、蒼真が来たらそっち見るし」
「……ごめん」
「何で謝るの」
「紬が嫌な思いするなら」
「するよ」
悠生が顔を上げる。
「……そっか」
「でも、悠生が悪いわけじゃない」
紬は前を向いた。
「好きになるのは、勝手だから」
「紬」
「俺も」
言葉が止まる。
紬は一度、息を吸った。
「悠生のこと、好き」
悠生は何も言わなかった。
「たぶん、最近分かった」
「……」
「一緒にいると嬉しいし」
「うん」
「メッセージ来るだけで嬉しいし」
「……うん」
「他の人と話してると、嫌になる」
紬は苦笑した。
「だから、多分そうなんだと思う」
悠生は目を伏せた。
「ありがとう」
「それだけ?」
「……ごめん」
「だから謝るなって」
紬は少し笑う。
「分かってた」
「何が?」
「俺が蒼真には勝てないこと」
悠生は顔を上げた。
「そういう言い方するなよ」
「だってそうじゃん」
「違う」
「じゃあ何が違うの?」
悠生は答えられなかった。
紬はその沈黙を見て、分かった。
悠生の気持ちは。
自分には向かない。
それでも。
「悠生」
「ん?」
「蒼真のこと、いつから好きだったの?」
悠生は少し考えた。
「分からない」
「そんな昔?」
「たぶん」
「子どもの頃から?」
「最初は、好きって分かってなかった」
悠生は歩きながら話す。
「ただ、蒼真といるのが楽しかった」
「うん」
「笑ってると嬉しかった」
「うん」
「昔、周りが蒼真のことを女みたいって言い始めた頃に」
悠生は少しだけ黙った。
「可愛いって思った」
紬は黙って聞く。
「でも、それだけじゃなかった」
「……うん」
「髪を切って、男っぽくなってからも好きだった」
紬の胸が少し痛んだ。
「今の蒼真も?」
「今の蒼真が好き」
その言葉に迷いはなかった。
「昔の蒼真だけじゃない」
悠生は続ける。
「昔も今も、蒼真だから好きなんだと思う」
紬はしばらく何も言わなかった。
悔しい。
悲しい。
でも。
少しだけ、納得できた。
悠生の気持ちは、蒼真の見た目に向いているわけじゃない。
蒼真という人間に向いている。
だから。
自分がどれだけ変わっても。
自分が蒼真に似ようとしても。
そこには入れない。
家に着く。
玄関を開ける。
「ただいま」
「おかえり」
蒼真の声がした。
リビングを見ると、蒼真がいた。
紬は一瞬、立ち止まる。
昨日までとは少し違って見えた。
昔、自分が憧れていた兄。
自分が女の子として生きたいと思うきっかけになった人。
そして。
悠生が好きな人。
でも。
それだけじゃない。
自分が知らない過去を抱えている人。
「紬?」
「……何でもない」
「そう?」
「うん」
紬は自分の部屋へ向かう。
階段を上りながら。
もう一度だけ、蒼真を見る。
蒼真は何も知らない顔で、テレビを見ていた。
紬は思った。
自分はずっと。
蒼真みたいになりたいと思っていた。
でも。
本当は違うのかもしれない。
蒼真になるんじゃない。
自分は、自分として。
女の子として生きたい。
その気持ちを。
初めて、蒼真への憧れとは別のものとして考え始めていた。
コメント
1件
うわ、第30話…これめっちゃ刺さったわ。 紬が悠生に告白するシーン、読んでて胸が締め付けられた。「分かってた」「俺が蒼真には勝てないこと」って言うところ、泣ける。でも悠生の「昔も今も蒼真だから好き」って言葉には、こっちも納得しちゃうんだよな。悠生の想いがブレてないのが伝わってくる。 で、最後の紬の「自分は自分として女の子として生きたい」って気づき、すごく大事だと思った。憧れから解放されて、自分自身に向き合い始めた感じがする。 ruruhaさん、この複雑な感情の描き方が本当に繊細で、30話も読んできたけど、今が一番ぐっと来た🔥