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#百合
うあな
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#ゆあんくん
モコビリ ❨低浮上❩
36,645
放課後。
教室には、もうほとんど人がいなかった。
紬は自分の席に座ったまま、帰る準備をしていた。
鞄に教科書を入れる。
その手が止まる。
昨日、蒼真から聞いたこと。
昔のこと。
悠生が知っていたこと。
そして。
自分だけが何も知らなかったこと。
「紬」
顔を上げる。
悠生が教室の入口に立っていた。
「帰らないの?」
「帰る」
「一緒に行こう」
「……うん」
二人で教室を出る。
廊下を歩く。
しばらく、どちらも話さなかった。
校門を出たところで、紬が口を開く。
「悠生」
「ん?」
「蒼真のこと、好きなんだよね」
悠生の足が止まった。
紬も止まる。
しばらく沈黙が続く。
「……誰から聞いた?」
「誰からも」
「じゃあ」
「分かるよ」
紬は笑おうとした。
「ずっと見てたじゃん」
悠生は何も言わない。
「昔から」
「……うん」
「蒼真が笑ったら嬉しそうだったし」
「……うん」
「俺が話してても、蒼真が来たらそっち見るし」
「……ごめん」
「何で謝るの」
「紬が嫌な思いするなら」
「するよ」
悠生が顔を上げる。
「……そっか」
「でも、悠生が悪いわけじゃない」
紬は前を向いた。
「好きになるのは、勝手だから」
「紬」
「俺も」
言葉が止まる。
紬は一度、息を吸った。
「悠生のこと、好き」
悠生は何も言わなかった。
「たぶん、最近分かった」
「……」
「一緒にいると嬉しいし」
「うん」
「メッセージ来るだけで嬉しいし」
「……うん」
「他の人と話してると、嫌になる」
紬は苦笑した。
「だから、多分そうなんだと思う」
悠生は目を伏せた。
「ありがとう」
「それだけ?」
「……ごめん」
「だから謝るなって」
紬は少し笑う。
「分かってた」
「何が?」
「俺が蒼真には勝てないこと」
悠生は顔を上げた。
「そういう言い方するなよ」
「だってそうじゃん」
「違う」
「じゃあ何が違うの?」
悠生は答えられなかった。
紬はその沈黙を見て、分かった。
悠生の気持ちは。
自分には向かない。
それでも。
「悠生」
「ん?」
「蒼真のこと、いつから好きだったの?」
悠生は少し考えた。
「分からない」
「そんな昔?」
「たぶん」
「子どもの頃から?」
「最初は、好きって分かってなかった」
悠生は歩きながら話す。
「ただ、蒼真といるのが楽しかった」
「うん」
「笑ってると嬉しかった」
「うん」
「昔、周りが蒼真のことを女みたいって言い始めた頃に」
悠生は少しだけ黙った。
「可愛いって思った」
紬は黙って聞く。
「でも、それだけじゃなかった」
「……うん」
「髪を切って、男っぽくなってからも好きだった」
紬の胸が少し痛んだ。
「今の蒼真も?」
「今の蒼真が好き」
その言葉に迷いはなかった。
「昔の蒼真だけじゃない」
悠生は続ける。
「昔も今も、蒼真だから好きなんだと思う」
紬はしばらく何も言わなかった。
悔しい。
悲しい。
でも。
少しだけ、納得できた。
悠生の気持ちは、蒼真の見た目に向いているわけじゃない。
蒼真という人間に向いている。
だから。
自分がどれだけ変わっても。
自分が蒼真に似ようとしても。
そこには入れない。
家に着く。
玄関を開ける。
「ただいま」
「おかえり」
蒼真の声がした。
リビングを見ると、蒼真がいた。
紬は一瞬、立ち止まる。
昨日までとは少し違って見えた。
昔、自分が憧れていた兄。
自分が女の子として生きたいと思うきっかけになった人。
そして。
悠生が好きな人。
でも。
それだけじゃない。
自分が知らない過去を抱えている人。
「紬?」
「……何でもない」
「そう?」
「うん」
紬は自分の部屋へ向かう。
階段を上りながら。
もう一度だけ、蒼真を見る。
蒼真は何も知らない顔で、テレビを見ていた。
紬は思った。
自分はずっと。
蒼真みたいになりたいと思っていた。
でも。
本当は違うのかもしれない。
蒼真になるんじゃない。
自分は、自分として。
女の子として生きたい。
その気持ちを。
初めて、蒼真への憧れとは別のものとして考え始めていた。
コメント
1件
うわ、第30話…これめっちゃ刺さったわ。 紬が悠生に告白するシーン、読んでて胸が締め付けられた。「分かってた」「俺が蒼真には勝てないこと」って言うところ、泣ける。でも悠生の「昔も今も蒼真だから好き」って言葉には、こっちも納得しちゃうんだよな。悠生の想いがブレてないのが伝わってくる。 で、最後の紬の「自分は自分として女の子として生きたい」って気づき、すごく大事だと思った。憧れから解放されて、自分自身に向き合い始めた感じがする。 ruruhaさん、この複雑な感情の描き方が本当に繊細で、30話も読んできたけど、今が一番ぐっと来た🔥