テラーノベル
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店に入ると、中は思ったより空いていた。
二人は窓際の席に向かい合って座る。
優人はメニューを開いて悩み始めたが、七星はいつものものを頼むつもりらしく、メニューを見る気配がない。
「この前は肉そば食べたからなあ……」
優人が唸っていると、七星が口を開いた。
「熟成味噌ラーメンも美味しいよ」
「味噌かあ……味噌もいいね」
「私は熟成味噌ラーメン!」
「了解」
優人はタブレットを操作して、熟成味噌ラーメンを二つ注文した。
この街に来てから、なぜか食欲が戻りつつある――そんなことをふと思う。
「ねえ先生。これって、もしかして“つくし”のお礼?」
「まあ……そうかな。“物”じゃないからいいでしょ?」
「そうだけど……気を使わせちゃったね」
「礼儀はちゃんとしなさいって、たぶんキミのおばあさんも言ってたんじゃない?」
「あ、たしかに……」
二人は思わずくすっと笑い合った。
優人はテーブルの隅に置かれたグラスを二つ取り、ポットから冷たい緑茶を注いで一つを七星の前に置いた。
その仕草を見て、七星が感心したように言った。
「先生って気が利くね。奥さんにもそうやって甲斐甲斐しく世話してたの?」
優人は少し考えてから答える。
「いや。結婚してたときは、妻がほとんどやってくれてたかな」
「ふーん。優しい奥さんだったんだね」
「うん」
(顔はキミとそっくりだけどね……)
喉元まで出かかった言葉を、優人は飲み込んだ。
七星は注いでもらったお茶を一口飲み、ふーっと息をつく。
「今日は忙しかった?」
「ちょっとね。最近、職場がぎくしゃくしてて、気を遣うからさ」
意外な言葉に、優人は目を丸くした。
「キミでも気を遣うことがあるんだ」
その一言に、七星はムッとする。
「これでも、かなり気は遣ってるほうなんですけどー」
優人は自分の無神経さに気づき、慌てて言った。
「ごめんごめん、そんなつもりじゃなくて……」
「先生って、けっこう無神経だよね」
「無神経?」
「うん。グサッと来ること、平気で言うし」
「…………」
そんなふうに言われたのは初めてだった。
優人はこれまで、周囲から“優しくて気が利く紳士”だと思われてきた。
妻の美奈子に対しても、無神経な態度は取らないよう心掛けていたつもりだ。
だからこそ、七星の言葉は胸に刺さった。
「……たしかに無神経だったね。ごめん、謝るよ」
素直な謝罪に、七星は「仕方ないな」という表情で軽く頷く。
そして話題を変えるように、病院のことを聞いてきた。
「先生、次の手術はいつ?」
「今度の金曜日……だね」
「この前みたいに難しい手術なの?」
「いや、前ほどじゃないけど……まあまあ高度なやつかな」
「ふーん」
七星は少し考え、ぽんと手を叩いた。
「じゃあさ、手術の前にこうするといいよ。いい?」
そう言うと、左の手のひらに“人”という字を三回書き、それを飲み込む仕草をする。
「こうやって“人を呑む”と緊張が和らぐんだって。日本の昔からのおまじない。これをやってから手術してみて!」
すました顔で言う七星に、優人は思わず吹き出した。
「あはは……」
「ほら、また笑う。でもね、馬鹿にできないんだよ。こういう伝統的なおまじないって」
「う、うん……分かった。やってみるよ」
「絶対効果あるから!」
優人は必死に笑いをこらえていたが、ちょうど料理が運ばれてきてほっと息を吐く。
「じゃあ、食べようか」
「いただきまーす」
「いただきます」
二人は熱々のラーメンを食べ始めた。
食事を終えると、優人がメニューの隅に目を留め言った。
「アイス、100円だって。食べる?」
「食べる食べる!」
七星の目が一気に輝く。
「バニラ? チョコ?」
「バニラ!」
迷いのない返事に、優人はバニラアイスを二つ追加注文した。
注文しながら、ふと美奈子との思い出がよぎる。
(美奈子とアイスを食べるときは、いつも違う味だったな。同じものを頼んだことは、一度もなかった気がする)
アイスが届くと、七星は満面の笑みで食べ始めた。
「けっこうクリーミーだよ」
優人も一口食べて頷く。
「本当だ。まるで北海道の牧場にいるみたいだ」
「んなわけないじゃん。100円のアイスだよ」
「ははっ、そうだったね」
二人はフフッと笑う。
そして次の瞬間、七星が、ふと真剣な声で言った。
「金曜日の手術……きっと大丈夫だから」
「え?」
「私、未来予測が当たるんだ。たぶん霊感かなんかあるんだと思う」
「本当に?」
「うん。ばあちゃんの遺伝かも。ばあちゃんもよく近所の人に“運勢見て”って頼まれて、タダで見てたし」
「まじで?」
「うん……。だからね、きっと金曜日は成功すると思うよ」
七星は優人の目をまっすぐ見て、にっこり笑った。
その笑顔を見た瞬間、優人の胸がズキッと疼いた。
それは、これまで感じたことのない、初めての心の疼きだった。
#幼なじみ
コメント
24件
優人先生の目を真っ直ぐ見てにっこり😊もう七星ちゃんにぞっこんですね 優人先生🩷 いままで知らずに自分をよく見せていた先生 素直な七星ちゃんの前でやっと本当の自分で過ごせているのではないかしら?金曜日の手術もおまじないと七星ちゃんの応援できっと大成功ですね
ラーメンデート🍜何だかいい雰囲気😊無神経って言われちゃったけど…優人先生は、七星ちゃんには素の自分を見せれるのかな…😊 手術のことも、七星ちゃんに励まされてきっと上手くいくはず✨ このままもっと2人の距離が近づきますように…💕 チューリップ🌷プレゼント、七星ちゃん喜んでくれるといいな😊
優人先生と七星ちゃんの会話の距離が少しずつ近づいてきてて楽しそう😊🩷熟成味噌ラーメン🍜やバニラアイス🍨も2人で食べると気分も上がるね⤴️⤴️ 七星ちゃんの予知発言は当たって欲しい!おまじないもね🌷 優人先生は七星ちゃんの笑顔に堕ちちゃってるけど、七星ちゃんは奥さんと自分がそっくりなんて全く知らなくて…それを他人から指摘されたら七星ちゃんはどう思うんだろうか…😥せっかく仲良くなったのにちょっと心配😞💦