テラーノベル
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ラーメンを食べ終えた二人は、店を出て駐車場で足を止めた。
「じゃあ、先生、またね」
七星が停めてあるバイクへ向かおうとしたとき、優人が慌てて声を上げた。
「あっ、ちょ、ちょっと待って!」
「先生、何?」
「キミに渡したいものがあって」
「え? お礼ならもうもらったからいいよ」
「そうじゃなくて……患者さんにもらったものなんだけど、キミが好きなやつだから」
そう言うと優人は急いで車のドアを開け、チューリップの花束を取り出した。
その瞬間、七星の顔がぱっと明るくなる。
「わぁ……」
「好きって言ってただろう? 今日、偶然いただいたんだ」
「すごーい、こんなにたくさん! 可愛い~」
七星の口から“可愛い”という今どきの女子みたいな言葉が飛び出したので、優人は思わず微笑んだ。
ぶっきらぼうな女性でも、好きな花を前にすると普通の女の子に戻るらしい。
「どうぞ。キミにあげようと思って持って帰ったんだ」
優人が花束を差し出すと、七星は両手いっぱいに抱えながら、信じられないといった表情を浮かべた。
「本当にもらっていいの?」
「うん。僕が持って帰っても、たぶんすぐ枯らしちゃうし」
「じゃあ遠慮なく。ありがとう」
「どういたしまして」
そのとき、七星が「あっ!」と声を漏らした。
「どうしたの?」
「私、バイクだから……」
優人はそこで気づいた。
「そっか。バイクじゃ花が散っちゃうか」
「うん。ゆっくり走っても、ぐちゃぐちゃになっちゃうと思う。チューリップの茎って柔らかいから」
「そこまで考えてなかったな……」
優人はしまったという顔で顎に手を当て、少し考え込む。
そして、ふとひらめいた。
「じゃあさ、僕が車で運ぶから、家まで案内して!」
「え?」
七星が目を丸くしたので、優人は慌てて手を振った。
「違う違う。家まで運ぶだけだよ。何もないから」
「ううん、そういう意味じゃなくて……うち、街はずれで遠いから、先生の時間、無駄にしちゃうよ」
「無駄も何も、僕も帰るだけだし」
「あ、そっか……」
七星は照れたように笑った。
「分かった。じゃあ、お願いします」
「了解。案内よろしくね」
白山小梅
優人が車に乗り込むと、七星はバイクのエンジンをかけた。
走り出した七星のバイクを、優人は車で追う。
海岸線をしばらく走ったあと、七星は左折し、さらに右へ曲がる。
景色はいつの間にか田園風景へと変わっていた。
(へぇ……こんな山里みたいな場所もあるんだな)
初めて走る道を珍しそうに眺めながら、優人は七星の後ろをついていく。
しばらく走ると、道路沿いに養護施設の看板が見えた。
この前、浜辺で七星が遊んでいた子供たちがいる場所だ。
(ということは、彼女の家ももうすぐかな?)
そう思っていると、七星が垣根に囲まれた敷地へ入っていったので、優人も続いた。
すると、古い平屋の家が姿を現した。
(これが彼女の家か……)
家は古いが、よく手入れされていて、まるで古民家カフェのような趣がある。
縁側に広げられた新聞紙の上には春採れの新じゃがが並び、その前にはいくつもの水鉢が置かれ、小さな蓮の葉が顔を出していた。
玄関横にバイクを停めた七星は、ヘルメットを外し、優人の車のそばへ来た。
「ここがうち! おんぼろでしょ?」
七星が笑うと、優人は車から降りて首を振った。
「いや、たしかに古いけど、趣があっていい家だね」
「うちのばあちゃん、けっこうセンス良くてさ。たまに観光客がカフェと間違えて入ってくるんだよね」
七星は楽しそうに笑った。
「僕も古民家カフェみたいだと思ったよ。本当にいい家だ」
優人は頷きながら後部座席から花束を取り出し、七星に渡した。
「ありがとう。せっかくだし、お茶でも飲んでく?」
「え? いいの?」
「たいしたおもてなしはできないけど、どうぞ」
「じゃあ、ちょっとだけ……」
雰囲気のよい古い家の中がどうなっているのか気になった優人は、ありがたくお邪魔することにした。
七星が引き戸の鍵を開けて先に入る。
そのあとに続いた優人は、一歩踏み込んだ瞬間、思わず声を漏らした。
「すごい……」
玄関は広い土間になっていた。
年代物の上がり框を上がると、ホールにはさまざまな骨董が飾られていた。
「ばあちゃん、古いものが好きでね。骨董が趣味だったの」
飾られた品々を眺めながら、優人は感嘆の息をついた。
「……まるで由緒ある老舗の旅館みたいだな」
「でしょ? リビングへどうぞ」
リビングは畳の部屋だが、レトロな絨毯が敷かれ、イギリスのアンティークと思われるテーブルセットが置かれている。
少し骨董に詳しい優人は、すぐに気づいた。
「これ、イギリスのアンティークだよね?」
「なんで分かったの?」
「昔、ちょっと興味があったんだ」
結婚前、優人は古い家具や道具に惹かれ、アンティーク展や骨董市によく足を運んでいた。
だが、美奈子は古いものが苦手で家に置きたがらなかったため、いつの間にか優人もそういった場所から足が遠のいていた。
だからこそ、久しぶりに本物のアンティークに触れ、胸が少し躍っていた。
「家具の中にはね、私が働いてプレゼントしたものもあるんだ。ばあちゃんは“そんなのいらないから水商売をやめろ”ってうるさかったけどさ」
「そっか……。でも、嬉しかったんじゃないかな」
「どうかな……」
七星はふふっと笑い、優人に言った。
「コーヒー淹れるから座ってて」
「ありがとう。家の中、見てもいい?」
「もちろん、どうぞ」
七星はチューリップをアンティークホーローの水差しに生け、部屋に飾ってから台所へ向かった。
その間、優人は室内の古い家具やアンティーク雑貨を、興味深そうに眺めていた。
コメント
12件
優人先生 七星ちゃんだけで無くお家も家具も気にい入りましたね 何もないマンションよりアンティークのある七星ちゃんの家の方がよくて居候とかしないのかしら? おばあちゃんが居なくなっても家をきれいに維持できる七星ちゃんもアンティーク好きと見ました❤️
アンティーク家具や食器&古民家も好きな優人先生…☕🏚️🌳🌷🌷 全く気取りが無く本音が言い合えるし、趣味も近いようですね…🤔 思いがけないお家訪問で、二人の距離がぐんぐん近づいてきましたね〜🥰💕
なるほどー!バイクは花が散っちゃうから、優人先生が車で届けることに😊チューリップ🌷すごく喜んでくれて良かったね💕 2人の趣味もバッチリ相性抜群👌 素敵な古民家へのお宅訪問🤭✨ 穏やかな時間になりそう🫶