テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
それから十分後、葉月の元夫の啓介が、庭に姿を現した。
「こんばんは、おじゃまします」
「「「こんばんは」」」
「「「いらっしゃい」」」
「久しぶり」
葉月は、少し緊張気味に元夫に声をかけた。
四年ぶりに見た夫の姿は、昔よりもかなり劣化している。
明らかに体重は増え、肌の色艶も悪く、髪も少し薄くなっていた。
浮気を繰り返していた頃の、はつらつとした夫の姿は、もうそこにはない。
(あれ? こんな人だったっけ? あの頃は、もうちょっと覇気があったような?)
葉月は不思議に思う。
一方、葉月を四年ぶりに見た啓介は、かなり驚いていた。
(は、葉月? これが今の葉月か? なんだか前よりも若く綺麗に見えるな……)
啓介が見た元嫁の姿は、健康的な美しさで輝いて見えた。
その時、莉々子が啓介に声をかけた。
「啓介さん、お久しぶりです。覚えてますか? 前に公園で一度だけお会いしたのですが……」
「え? あ、ああ……あの時の……。ど、どうもご無沙汰しています」
(絶対覚えてないくせに)
葉月は元夫を睨みながら、心の中で呟く。
昔、葉月が航太郎を連れて里帰りをしていた時、珍しく啓介が迎えに来たことがあった。
その時、二人はたまたま公園で会っていた。
「今日は航ちゃんに会いに?」
「そうなんです。このところずっと忙しくて、なかなか会いに来れなかったものですから」
(プッ! こんな時でも見栄を張るんだ。本当は、息子に面会を拒否されたくせに)
その時、啓介が息子に向かって叫んだ。
「おいっ、航太郎! ちょっとこっちへ来なさい」
賢太郎と楽しく会話をしていた航太郎は、いきなり呼ばれたのでふてくされた顔になる。
そして、返事もせずにノロノロと立ち上がると、父親の傍まで来た。
「ほ、ほら、航ちゃん! 挨拶くらいしなさい」
「いらっしゃい」
航太郎はしらけた顔のまま一言だけ言うと、すぐに踵を返して自分の席へ戻った。
そして、賢太郎の腕を掴むと、そのまま家の中へ入って行った。
「おっ、ちょ、ちょっと、待てっ! おいっ、航太郎っ」
息子を引き止めようとする啓介に、雅也が言った。
「まあまあ、お父さん。息子さんは、今、多感なお年頃ですから……」
「ハァッ?」
「あ、初めまして。僕は、莉々子の夫の水島雅也と申します」
「ど、どうも。航太郎の父親の野村啓介です」
「まあ、どうぞどうぞこちらへ。まだお肉もいっぱいありますから」
「このお肉は水島さんが持って来てくれたのよ。但馬牛ですって。だからすっごく柔らかくて美味しいの」
葉月の言葉を聞き、啓介は諦めたように椅子に座る。
すると、亜美の夫の宮崎が、よく冷えた缶ビールを啓介に渡しながら言った。
「初めまして、宮崎です。で、あっちに座ってるのが妻の亜美です。さっき葉月さんからチラッと聞いたんですが、野村さんはパイロットなんですってねー?」
「初めまして、舟木と申します。パイロットは、子供の頃ずっと憧れてた職業です。でもまさか、その本業の方とお会い出来るとは……」
「いや、パイロットと言っても、ただの飛行機の運転手ですから……ハハハッ」
啓介は、二人に持ち上げられて、まんざらでもなさそうだ。
「ちなみに国内線ですか? それとも国際線?」
「若い頃は国際線にも乗っていましたが、今は国内線オンリーですね」
「へぇー、じゃあ沖縄や北海道なんかにも、行かれるんですか?」
男性陣が、うまく啓介を会話に引き込んでくれたので、葉月は莉々子と亜美のいるテーブルへ戻った。
「ちょっとちょっと、航ちゃん、本当に挨拶しただけで行っちゃったね」
「あれ見てて思ったんですけど、航ちゃん、相当父親を嫌ってますよねー?」
二人の言葉に、葉月が驚く。
「え? そう見えた?」
「うん。あれはそうとう毛嫌いしてるよー」
「私もそう思いました。きっと今まではママに気遣って、我慢してたんじゃありませんか?」
「…………」
葉月はショックを受けていた。
(でも、少し前までは、お父さんに会えるのを楽しみにしていたはずなのに……)
「でも、小学生の頃は、喜んで会いに行ってたけどなぁ……」
「小学生の頃はそうでも、今はもう思春期だし……いろいろあるんだよ、きっと」
「そうそう。離婚の原因も知ってるみたいだしね。そういうのがわかる年になったから、お父さんのことを尊敬できなくなっちゃったとか?」
「そういうもんなのかなぁ……」
そこで葉月は激しく落ち込む。
(なんて馬鹿な母親なの? 大事な息子の本音にも気づいてやれないなんて)
「あ、私、ちょっと氷取って来るわね」
あまりにも自分が情けなくなった葉月は、アイスペールを持ってキッチンへ向かった。
キッチンへ行き冷凍庫の扉を開けた時、二階から大きな笑い声が聞こえてきた。
二人の様子が気になった葉月は、階段下まで行き二階の様子をうかがう。
すると、二階からこんな会話が聞こえてきた。
「アハッ、そんな動きじゃ、まるでスポーツカメラマンだな」
「え? 俺ちゃんと動かしたよ?」
「弧を描くように動いちゃ駄目だよ。大谷のホームランボールを狙う時はそれでもいいけどね」
「俺は野球ファンじゃないから、ボールはいらない。じゃあ、どう動かすの?」
「電車の流し撮りをする時は、電車と平行になるように動かさないとダメなんだ」
「平行?」
「そう。見てて、こんな感じ……」
「……そっか、地面と平行みたいな感じなんだね?」
「そういうこと。ちょっとやってごらん」
「うんっ。えっと……こんな感じ?」
そこで、賢太郎の笑い声が響いた。
「アハハハッ、なんか肩がガチガチに固まってて変な動きになってるぞー」
「なんかロボットみたいな動きになっちゃったかも、テヘッ」
「本当だ、それじゃまるでロボットだなー、アハハハ……あー、なんか可笑しい」
「ウフフフ、あんまり笑わないでよー……アハハハッ」
今度は二人の笑い声が響いてくる。
楽しそうな息子の笑い声を聞きながら、葉月はこんな風に思った。
(これじゃあ、父親の出る幕なんてないわね……)
葉月はクスッと笑うと、足音を立てないように再びキッチンへ戻って行った。
コメント
47件
中年太りで頭も波平さんに近づくって浮気相手と再婚したのに残念だわ元旦那…残念だけど多感な年頃になり人間としてのより悪し判断出来るのよだから貴方の居場所此処にはないわね。新しい父ちゃん候補居るしね、
啓介、今更良い父ぶっても時すでに遅し😑 航ちゃんは、尊敬できる賢太郎さんがええの☺️🍀🍀🍀
元旦那の啓介さんは、今妻の劣化 を見てるから久々に会う元妻の葉月さんの綺麗さに別れたのを今更後悔してるのか…?!まあ、今更接触して来た所で、無理じゃないの??