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ご提示いただいた衝撃的なプロットを、一つの連作短編のような構成で書き上げました。 笑いと毒舌にまみれた日常が、一気に色を失っていくまでの物語です。
「お前みたいなガサツな女、誰がもらうんだよ」 それが、ハルの口癖だった。 幼稚園からの幼馴染。腐れ縁。私たちの関係を一言で表すなら「泥沼の漫才」だ。私がダイエットを始めれば「脂肪が泣いてるぞ」と笑い、新しい服を着れば「カーテンの余り布か?」と揶揄する。
でも、私が本当に落ち込んだ夜、コンビニの袋いっぱいにアイスを買って、何も聞かずに公園のベンチで朝まで付き合ってくれるのは、いつもハルだった。
「お前が泣くと、ブサイクが加速するから見てらんねーんだよ」 そう言って、彼は自分の上着を私の頭からバサリとかぶせた。その時の、少しだけ煙草の匂いがするハルの体温が、私の世界のすべてだった。
「ハル、私、彼氏できた」 そう報告した時、ハルは一瞬だけ、フリーズした。持っていた缶コーヒーを落としそうになり、それからいつもの、人を食ったようなニヤニヤ笑いを浮かべた。
「マジかよ! その男、視力検査行った方がいいんじゃねえの?」
それからのハルは、完璧な「親友」だった。 今の旦那を紹介した時も、彼は誰よりも盛り上げ、旦那と意気投合し、私の取扱説明書(「朝は機嫌が悪い」「意外と寂しがり屋」なんて、余計なことまで!)を勝手に伝授していた。
結婚式の日。 ハルの友人代表スピーチは、会場中を爆笑の渦に巻き込んだ。私の失敗談をこれでもかと披露し、最後にはこう締めくくった。 「新郎さん、こいつは手がかかるけど、世界で一番……いや、世界で二番目くらいに良い女です。幸せにしてやってください。……じゃないと、俺が返品しに来るからな!」 その時、ハルがこっそり指で涙を拭ったのを、私は「感動してやがる、珍しい」と、お気楽に笑って見ていたんだ。
娘が生まれた。ハルに似て、どこかふてぶてしい顔をした赤ちゃんだ。 病院に駆けつけたハルは、私の顔を見るなり「うわ、母親の顔になっちゃって、つまんねーの」と吐き捨てた。
でも、彼は娘を抱き上げると、今までに見たこともないような、優しくて、そしてひどく絶望的な目をした。 「……よかったな、ハナ。これで全部、お前の欲しかったものは揃ったな」
それが、私が見たハルの最後の笑顔だった。 数日後、彼は自分のアパートで、ひっそりと自ら命を絶った。
お通夜の後、ハルの母親から一冊のノートを渡された。 そこには、彼が私に言おうとして、結局「ジョーク」に変えて飲み込んできた言葉たちが、びっしりと書き連ねられていた。
『ハナに彼氏ができた。笑ってなきゃいけないのに、顔が引き攣る。』 『結婚式。ドレス姿が綺麗すぎて、殺してやりたいくらい愛おしかった。』 『子供が生まれた。もう、俺が隣にいる理由はどこにもない。』
彼は、私の幸せを壊さないために、自分の心を削って、毎日「面白い親友」を演じ続けていた。私の人生を「最高のラブコメ」にするために、彼は自分の愛を、一滴残らずギャグの中に溶かして隠したんだ。
四十九日が過ぎ、私は一人、書斎でペンを走らせる。 彼に届くはずのない、でも書かずにはいられない手紙。
「ハル。あんたの嘘は完璧だったよ。 あんたが死んでから、毎日誰かが私のところに来ては、あんたの面白い思い出話を話していくよ。みんな、あんたのことが大好きだった。 私も、その中の一人だよ。
ねえ、ハル。 あんたが守ってくれたこの幸せな家庭で、私はこれからも笑って生きていく。 あんたが遺した、この『ラブコメ』を、バッドエンドにはさせない。
でも、たまには、あんたのことを思い出して泣いてもいいかな。 あんたが隠し通した気持ちに、気づかないフリをしてあげられなくてごめん。 あんたが隣にいない世界が、こんなに静かで、退屈だなんて知らなかった。」
震える指で、私は最後の一行を綴った。
「あんたの負けだよ。私も、ずっと、好きでした。」