テラーノベル
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私は、画面越しでも目を惹きつけて、口から吐息を洩らさせ、人を魅せ、心を動かしてしまえるような…女優だった。
それは傾城か、魔性か。そんな魅力で。
_欲しかった名声も、富も、愛も。
全て手に入ってしまった。
…ある日のこと。私は一つ思ってしまった。
「あぁ。私はこうして死にゆくのか。」
それは何故か腑に落ちなくて、私の心を揺さぶった。今日も予定がびっしりあるのに。世界が私を待っているのに。
私は、何をしている?
■■さん!■■さん!!
そう私を呼ぶ声が聞こえて、はっと顔をあげた。
心配そうに此方を見やる共演者C、此方を見ながら軽口を言って笑いとばす共演者A、そして叱責を飛ばしてくる監督。
あぁ。すみません。
そう淡々と心の籠らない謝罪を口にした。
その日からだ。その日から。あんなことを考えたから。
それからの私の演技は酷いものであった。抑揚はボロボロ。小学生の音読のようだ。泣く演技をしようとも泣けない、笑えない、こんなの私じゃないみたいだ。
こんな焦燥。もう味わいたくない。
私は人生ではじめての挫折をした。舞台にはもう戻らなかった。もう全部棄ててしまいたかった。
だって、もう演じられない。
私はこれまで私が好んで着なかったドレス、女優経験で身に付けた変装で「吟遊詩人」として世界を旅した。
そこでは、「英雄」と出逢った。出逢ってしまったのだ。
嗚呼。こんなに美しい生き様はないだろう。
煌めく汗も、自然に溢れる宝石の涙も。
創られぬものはこんなに美しいのだと。
私がこんな美しい生き様を創ってみたい。書いてみたい。語ってみたい。■■■みたい。
英雄がまたどこか彼方へ旅立った頃、私はマゼンタの悪魔と邂逅した。悪魔の象徴のような蝙蝠の翼は、美しく見えた。…あの生き様の煌めきには敵わないが。
彼女はこう云った。
「未来の貴女と引き換えに、貴女にこの現実を動かす力を授けましょうか。」
あまりに理想的。私が描いていた願いが叶えられる。
そう信じて、私はその契約を呑んだのだ。
私は、美しく現実を動かし、それをお伽噺のように語る。
私は女優から、美しく人生を彩る脚本家、そしてそれを語る吟遊詩人になっていた。
嗚呼。こんなに美しい。
ピッ、とテレビをつける。
ただの気まぐれだった。
そこに映るのは、私。
まるで大女優。素晴らしい演技をして、あの日みた彼のような煌めく汗を流して、宝石のような笑顔で人々を魅せていた。
それは挫折を味わった者こそが演じられる煌めきだった。
ふぁさ、と。悪魔の羽が降り立った。
「これが、貴女が演技を続けていた未来の…貴女なんだよ。」
貴女は吟遊詩人をやめて、本当はまた女優へと戻ったのだと、彼女は言った。
そんなの知らない。知らなかった。
無責任にもその悪魔は軽やかな足取りで我が家をでた。
あぁ。夢に観てしまう。もう出逢えない未来の自分の姿を。
私は本当は…本当はずっと演じていたかったのだ。
コメント
9件
甘い話には裏がある…
まだ姿は作っていません!もうすぐ作ります…👍