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#死に戻り
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満月の鐘まつりの当日、前の周回よりずっと多くのことが整っていた。
橋の危ない板は替えた。照明器具の金具も締め直した。裏のぬかるみには板が渡され、屋台の脚は重しで安定している。トゥランの誘導も早く、ホレの段取り表も見やすくなった。
夕方の時点で、サベリオは何度も空を見上げた。雲はある。けれどまだ持ちこたえている。これなら行けるかもしれない。
夜が更け、音語りが始まる。橋の上の鐘。風の細い音。しずくシェルターの雨だれを模した柔らかな響き。デシアの声は前より落ち着いていて、観客はちゃんと耳を傾けていた。
うまくいっている。
サベリオは橋の端で人の流れを見ながら、初めて少しだけ安堵した。前はここで照明が傾いた。だが今日は金具が鳴らない。提灯も無事だ。橋板もきしみ方が違う。
やがて雨が来た。
前と同じように大きな粒で始まり、すぐに激しくなる。けれど今度は皆の動きが速かった。トゥランが声を張り、観客は前より落ち着いてシェルター側へ流れる。サベリオもその流れを支えた。
勝てる。
そう思った矢先、橋のたもとで青白い火花が散った。
発電機の配線だった。
ジャスパートが振り向き、何か叫ぶ。雨に濡れた延長線の接続部から、ぱちぱちと嫌な音がする。前の周回では照明の落下に気を取られ、そこまでは見ていなかった場所だ。
「近づくな!」
サベリオが叫ぶより早く、人の流れがそのそばへ寄った。雨を避けようとして、皆が一か所に集まる。感電したら終わる。
サベリオは反射で走った。配線を踏み越え、濡れた板の上から人を押し戻す。
「下がって! そっちじゃない!」
その時、足元で水が跳ね、手の甲に何かが触れた。
白く弾ける。
次の瞬間、全身の骨が内側から叩かれたみたいな衝撃が走った。息が止まり、視界が真っ白になる。雨の冷たさも、人の声も、一度に遠のいた。
倒れながら、視界の端でデシアが見えた。彼女がこちらへ手を伸ばし、名前を呼ぶ。けれど音はもう届かない。
――うまくいったはずだった。
橋も、照明も、足元も、前よりずっとましだったのに。
雨と雷鳴のあいだを縫うように、満月の鐘が鳴る。
長く、低く、夜の底から引き上げるような音だった。