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また朝だった。
白い天井。階下の物音。木箱を引く音。誰かの笑い声。モルリがこぼす前の、まだ平和な空気。
サベリオは布団の上でしばらく動けなかった。今回は橋から落ちていない。照明も落ちていない。板も直した。それでも、夜は別の場所から牙をむいた。
事故は一つ潰せば終わるものじゃない。
ようやく起き上がると、指先がかすかに震えていた。感電した時の衝撃が体に残っている気がする。けれど手のひらには火傷ひとつない。
階下へ降りると、やはり同じ朝が待っていた。モルリはまだスープをこぼしていない。ホレは帳面を広げ、ミゲロは箱を運んでいる。
その中で、デシアだけがサベリオを見るなり足を止めた。
「……変」
昨日も聞いた言葉だった。けれど今朝の声は少し違う。自分でも説明のつかないものに触れたみたいな、戸惑いが混じっている。
「どうしたの」
サベリオが聞くと、デシアは眉を寄せた。
「わからない。でも、あなたの顔を見ると胸がざわざわする」
「ざわざわ」
「前にも、こういう朝があった気がして」
サベリオの息が止まる。
デシアは自分の胸元を指先で押さえ、言葉を探すように視線を落とした。
「夢かもしれない。雨の音とか、橋の灯りとか、すごく嫌な感じで知ってるのに、思い出せない」
「……」
「変なこと言ってるよね」
「いや」
否定できなかった。あの夜、橋の上で彼女は泣いていた。二度目の夜にも、こちらへ手を伸ばしていた。全部を覚えていなくても、残り香みたいなものが胸に引っかかっているのかもしれない。
地下のほうから、深い時計の低い音がした。
デシアはぴくりと肩を揺らし、サベリオはその反応を見逃さなかった。やはり彼女にも、何かが届いている。
「大丈夫?」
今度はデシアのほうが聞いてきた。
「全然」
正直に答えると、彼女は少しだけ目を細めた。笑うでもなく、突き放すでもなく、困った人を見る時のやわらかい顔だった。
「じゃあ、倒れる前に言って」
「倒れる前提?」
「最近のあなた、そういう顔してる」
小さく笑われた。ほんの少しだけ、肩の力が抜ける。
戻ってきた朝は同じでも、前とまったく同じではないのかもしれない。少なくとも、自分の怯えに気づく人がここにいる。
サベリオは深く息を吸った。まだ何も解けていない。次は何が起こるかもわからない。けれど、一つだけはっきりしたことがある。
自分はまだ、終われていない。
#成り上がり
#死に戻り
#ハッピーエンド
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