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第11話拝読しました。消しゴムを拾うシーン、指先が触れただけなのに紬の胸が熱くなる感じ、すごく伝わってきました。あと悠生の「昔のままじゃ、いられないか」という独り言が胸に刺さりますね。三人の距離感が繊細に描かれていて、読んでいて切なくなりました。次が気になります🌷
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さぶた@気分屋
101
昼休み。
教室には弁当の匂いが広がっていた。
紬は窓際の席で、一人パンの袋を開ける。
向かいの席から笑い声が聞こえた。
蒼真だった。
男子数人と何か話している。
声は聞き取れない。
でも、笑っている。
自然な笑顔だった。
紬は視線を落とす。
パンを一口かじる。
味はしなかった。
「食べないの」
悠生が向かいに座る。
「食べてる」
「それ、一口目から止まってる」
図星だった。
紬は黙ってパンをもう一口食べる。
悠生はそれ以上何も言わない。
代わりに牛乳のストローを開けた。
「……昨日」
紬が小さく言う。
「うん」
「蒼真と話した?」
悠生の手が止まる。
「話した」
「何を」
「世間話」
紬は顔を上げる。
「嘘」
悠生は苦笑した。
「嘘って分かる?」
「分かる」
「じゃあ隠しても意味ないか」
少しだけ間を置く。
「でも、ごめん」
悠生は紬を見る。
「話せない」
その一言で終わりだった。
紬はそれ以上聞かなかった。
聞けなかった。
五時間目は移動教室だった。
美術室。
二人一組で課題を進める。
先生が適当に組み合わせを決めていく。
「じゃあ蒼真と……」
名前が呼ばれる。
一瞬だけ期待した。
「佐伯」
違った。
「紬は悠生な」
「はい」
返事をする。
隣を見る。
悠生も苦笑していた。
課題は互いの手をスケッチすることだった。
「動くなよ」
悠生が言う。
「……うん」
紬は机に手を置く。
鉛筆が紙を擦る音だけが響く。
「紬の手、小さいな」
「普通じゃない?」
「蒼真とそっくりだけど」
その名前に、紬は少し肩を震わせた。
「でも」
悠生は鉛筆を止める。
「昔はもっと似てた」
紬は黙る。
「小さい頃、手なんか見分けつかなかった」
「……そうなんだ」
「うん」
悠生は笑う。
「蒼真が転んで泣いて、お前が一緒に泣いてさ、先生が『どっちがどっち?』って困ってた」
紬は思わず笑った。
ほんの少しだけ。
「そんなことあった?」
「あった」
悠生も笑う。
「俺だけ覚えてる」
その笑顔が、不意に曇る。
「でも」
悠生はスケッチブックへ視線を落とした。
「今は間違えない」
紬も、自分の手を見る。
少し骨ばってきた指。
男の手。
そう思った瞬間。
胸の奥がざわついた。
無意識に袖を引っ張る。
隠すように。
授業が終わる。
廊下へ出ると、前を蒼真が歩いていた。
紬は立ち止まる。
追いつけばいい。
そう思う。
でも足が動かない。
その時だった。
蒼真の消しゴムがポケットから落ちる。
床を転がった。
紬は反射的に拾う。
「蒼真」
呼ぶ。
蒼真が振り返る。
紬は消しゴムを差し出した。
「落ちた」
蒼真は少し驚いたような顔をした。
「ああ」
受け取る。
その一瞬だけ。
指先が触れた。
「……ありがと」
小さな声。
それだけ言って歩き出す。
紬はその場に立ち尽くす。
胸が少し熱かった。
昔なら。
消しゴム一つ拾ったくらいで嬉しくなったりしなかった。
でも今は。
「ありがとう」
たった五文字が。
ずっと聞きたかった言葉みたいに、胸の奥へ残っていた。
その様子を、少し離れた廊下の角から悠生が見ていた。
蒼真が振り返ったこと。
紬が少しだけ笑ったこと。
そのどちらにも、悠生は気づいていた。
小さく息をつく。
「……昔のままじゃ、いられないか」
誰にも聞こえない独り言は、チャイムの音に溶けて消えた。