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さぶた@気分屋
101
朝。
目が覚めても、紬はしばらく天井を見つめていた。
夢を見た。
久しぶりだった。
幼い頃。
まだ髪が長かった蒼真が笑っている。
「紬、こっち」
手を振る。
紬は嬉しくて走る。
転びそうになっても、蒼真が手を掴んでくれる。
「大丈夫?」
「うん!」
二人で笑う。
その隣には悠生もいた。
「早く行こう!」
三人で手を繋いで走る。
そこで目が覚めた。
もう続きは見られなかった。
教室。
紬は机に頬杖をつく。
夢のせいか、朝から気持ちが落ち着かない。
「眠そう」
悠生が笑う。
「……夢見た」
「珍しい」
「うん」
少しだけ迷う。
「昔の夢」
悠生の表情が柔らかくなった。
「三人?」
紬は頷く。
「楽しかった?」
「……楽しかった」
短く答える。
それだけで十分だった。
昼休み。
紬は図書室へ向かった。
静かな場所へ行きたかった。
本棚の間を歩く。
一冊、本を手に取る。
心理学。
何となく目についただけだった。
ページをめくる。
内容は頭に入らない。
「珍しいな」
声がした。
振り向く。
蒼真だった。
紬は目を見開く。
「蒼真」
「本読むの」
「……たまに」
ぎこちない会話。
図書室だから、お互い自然と声が小さくなる。
蒼真は紬の手元を見る。
「難しそうなの読んでるな」
「読んでない」
「どっちだよ」
少しだけ笑った。
ほんの一瞬。
昔みたいな笑い方だった。
紬もつられて笑う。
「あ」
笑ったことに、自分で驚く。
蒼真も少しだけ目を丸くした。
沈黙。
居心地の悪い沈黙じゃなかった。
「じゃ」
蒼真は本を借りると、そのまま図書室を出ていく。
紬は後ろ姿を見送る。
今日だけで二回も話した。
それだけなのに。
少しだけ嬉しかった。
放課後。
悠生は昇降口で蒼真を待っていた。
「帰る?」
「ああ」
二人で歩き出す。
紬は図書委員の仕事で少し遅くなる。
久しぶりに二人きりだった。
「今日」
悠生が口を開く。
「図書室で紬と話してただろ」
蒼真は少し驚く。
「見てたのか」
「たまたま」
嘘だった。
迎えに行こうとして見つけた。
「珍しかったな」
蒼真は前を向いたまま歩く。
「……たまたまだ」
「そういうことにしとく」
悠生は笑う。
しばらく沈黙が続く。
やがて、
「紬」
蒼真がぽつりと言った。
「最近、少し変わったよな」
悠生は隣を見る。
「そう?」
「ああ」
蒼真は少し考えるように目を伏せる。
「昔みたいに話しかけてこなくなった」
その言葉に、悠生は思わず立ち止まりそうになる。
気づいていたんだ。
気づいていないと思っていた。
「寂しい?」
冗談半分で聞く。
蒼真はすぐには答えない。
数歩歩いてから、小さく息を吐いた。
「……分からない」
その答えは、蒼真らしかった。
同じ頃。
図書室の仕事を終えた紬は、一人で校門を出る。
夕焼けが街を赤く染めている。
ふと前を見る。
少し先を歩く二人の背中。
蒼真。
悠生。
並んで歩いている。
昔から変わらない距離。
紬は立ち止まった。
追いつこうと思えば追いつける。
でも、その足は動かなかった。
二人の間に入る勇気は、まだなかった。
コメント
1件
うわああ第12話読み終えたよ〜!!😭💕 紬が昔の夢を見るところから始まって、蒼真と図書室でほんの一瞬交わした笑顔がもう…エモすぎてやばい!!「あ」って自分で驚く紬の心境、神すぎるでしょ…。悠生が蒼真に「寂しい?」って軽く聞くシーンも胸に刺さったよ。気づいてたんだ、って悠生の視点もグッとくるね。 最後の夕焼けの背中、追いかけたいけど追いかけられない距離感…もう切なさで胸いっぱいです😭 続きが待ちきれないよ〜!!