テラーノベル
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中性的というのだろうか? 振り返ったのは、やっぱり男の子か女の子かよくわからない顔。だけど、とても綺麗な顔だった。
抜けるように肌が白くて、お人形みたいに整いすぎるほど整った顔。綺麗すぎて、ちょっと怖くなるぐらい。
だけど、それよりも気になったのはその子の右目の辺りをグルグルと覆った包帯のようなものだった。うちのいる所からはよく見えなかったけれど、その包帯の布地には赤く滲んだ文字がびっしと書き込まれていた。
それに引き込まれ思わずうちが一歩、石舞台に近づいた時だった。ゆっくりと――柔らかく瞑られていた、もう片方の瞳が開いた。
思わずうちは声にならない声をあげていた。石舞台の上でたたずむその子の瞳は深海の静寂を思わせるような漆黒で、一点の光もなかった。それに見すえられ、うちは足元が浮き上がり宙に吸い込まれるような浮遊感を覚える。
続いてグラリと地面が揺れるような眩暈に襲われ、あっと後ろによろめく。
「――おっと。大丈夫かい?」
転倒する前にそっとうちは両肩を抱きとめられていた。肩越しに顔をのぞかせたのは、お父さんだった。お父さんも石舞台の上にいる男の子と同じような格好をしている。もっとも、お父さんは大人だから稚児じゃなく神職だけど。
「ここは足元が悪いからね。滑らないように気をつけないと――」
「あ、うん……。ごめん……」
「それにあの御方を前にしたら、気持ちをしっかり持たないとダメだよ」
少し声を低くしてお父さんは言った。
「見た目は小さな子供でも、あの御方は神様だからね。……たとえ悪気がなくても、まっすぐ見つめ合えば、それだけでこっちはいろいろなものを吸い取られてしまうから」
「吸い取られる……」
思わず、うちはお父さんの言葉を繰り返していた。
「だけど、大丈夫。……塚森家は先祖代々、神様と上手に付き合うためのノウハウを何百年もかけて積み上げてきたからね」
にっこり笑ってお父さんは続ける。
「だから心配しなくても、キミカだってすぐに神様と心を通わせることができるようになるよ」
うちは横目で石舞台のほうを見遣る。もう、あの子はこちらを向いていなかった。ボンヤリとした表情で頭上から降りそそぐ幽かな月の光を眺めていた。
「もし、神様と心を通わせれるようになったら――うちはホンマの塚森の子になれるん?」
考えなしに出てきた一言だったけれど、すぐに後悔した。ほんの少しの間だっただけれど、はっと息を飲んだお父さんが表情を曇らせたからだ。
「バカだなぁ、キミカは。……できようと、できまいととっくにキミカは塚森の子だよ」
少し間を置いて、お父さんがうちの頭を撫でる。『御穴』の底は暗くて、表情まではよくわからなかったけれど、その声は笑っているようにも、少し泣いているようにもうちには感じられた。
「だけど――これはこれ。それはそれだ。これからのキミカの人生において、ここで神様と縁を結ぶことは必要不可欠だ。理由は……言わなくてもわかるね?」
うちは頷いていた。実際、お父さんの言う「理由」は毎日のように起こっている。
例えば、今日は学校の帰り道に水たまりが出来ていたから避けて歩こうとしたところ、中から女の人の手が出てきて足をつかまれた。
一昨日は学校のトイレでネズミの顔をした小人の群れに取り囲まれた。
その十日ぐらい前には、友達と遊びに出かけた映画館でスクリーンいっぱいに見知らぬおっさんの顔が浮き出てきて目当ての映画は結局一分も見ることができなかった。
……他にもいろいろある。
ありすぎて、どんな感じだったかいちいち思い出せないくらい。
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