テラーノベル
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白い羽根が一枚、空から舞い落ちる。
天国美は、おかっぱ頭の狸耳少女をお姫様だっこしたまま翼をはためかせ、静かに地面に降り立った。
おかっぱ頭の狸耳少女を地面にそっと置き、
天国美はきょろきょろと辺りを見回した。
「流石に全裸のままだとちょっと恥ずかしいですね……」
天国美はそう言って変身魔法でアメスク姿に変身した。天国美の背中に生えた翼は光となって消え、黒くなっていた両目は元の目に戻った。
「ひとまずこれでよしとしましょう。……はぁ、ひどい目に合いました」
「天国美ー!!」
私は箒に乗って天国美の元へ大急ぎで向かう。
「おねぇちゃん!!助けに来てくれたんですね!!」
天国美はいつもと変わらない調子で私に手を振る。
「怪我はない!?ってかさっきの姿なんなの!?」
「あれは私の第二形態です。後二段階変身を残してますよ」
天国美は何故かドヤ顔でそう言った。
何なのあんたラスボスなの?
そこへ、楓子さんが私達の元へ箒でやってくる。
楓子さんが箒から飛び降りるなり、一目散に天国美に駆け寄り、強く抱きしめた。
「楓子さん!?」
天国美が顔を赤くしてじたばたする。
「すまない。助けに来るのが遅くなって」
「……楓子さんのせいじゃありませんよ」
そう言って天国美がおそるおそる楓子さんを抱きしめ返す。
「それにしても大事になっちまったなぁ……
どうすんだよ山1個消滅しちまってるぞ?」
小守が周囲をきょろきょろ見渡しながら心配そうな顔をする。
「……」
天国美の顔がさっと青ざめる。
「どどどどうしましょう楓子さん!?」
「落ち着いて二人とも、今回の件は移動中に魔法局に連絡してある。後処理に関しては魔法局の連中に任せよう」
「楓子さん、魔法局って何ですか?」
天国美が首を傾げる。
「魔法局というのは、魔法に関する事件を取り扱う政府直属の組織のことだよ」
「今回の狸耳少女達によって引き起こされた天国美誘拐事件及び戦闘による山の消滅は魔法局によって今夜中にでも記憶処理されるはずだ。狸耳少女達の身柄も、後で魔法局に引き渡す予定だよ」
「よかったぁ」
天国美はほっと胸を撫で下ろした。
「ふふ、ふふふ、記憶を消したって無駄ですよぉ」
気絶をしていたはずの刑部っちがふらついた足取りで起き上がる。
楓子さんはすかさず《黒蔦呪縛》で刑部っちを縛り上げた。
「どういうことだい?」
鋭い目をしながら楓子さんが刑部っちを見る。
「天国美様の体内には今、先程注射した舎蘭様の血液が流れています。例え今回の事件の記憶を消してもその事実は消えませんよぉ。舎蘭様は必ず再び蘇ります。大いなる絶望とともにねぇ!!」
刑部っちは蔦に縛られながら高笑いをした。
「あなた達何なの……?天国美を連れ去って、危険な目に合わせて!!何が目的なの!?」
私はそう言いながら刑部っちの睨む。
「おやおや、貴女が地獄子様本人ですか?
こうして見ると舎蘭様そっくりですねぇ。
陰気な表情も、声も、自らを呪いドッペルゲンガーを召喚してしまうところも」
刑部っちはまるで動じずに話を続ける。
「私は舎蘭様の使い魔でした。舎蘭様はとてもワガママで乱暴で嫉妬深く……そして誰よりも愛情深く一途なお方でした。私はそんな舎蘭様のことをお慕いしておりました」
「しかし、舎蘭様の持つ負の感情はあまりにも強すぎました。終いには彼女は自らの負の感情に呑み込まれ自死を選びました。___その時私は、舎蘭様に何もしてあげられなかった」
「私はただもう一度舎蘭様にお会いしたいだけなのです。使い魔が亡くなった主人に会いたがることの何がおかしいのでしょうか?」
刑部っちの言葉を、楓子さんは唇を固く結びながら聞いている。
「私は決して諦めません。例え魔法局に囚われたとしても、必ず舎蘭様を復活させてみせますよぉ……!!」
刑部っちはそれから狂ったように高笑いを続けた。
その後刑部っちと狸耳少女達は魔法局の魔女達に連行されていった。
事件処理の後はすっかり日も暮れていた。
天国美が私に寄りかかって溜め息を吐く。
「なんか今日は色んなことが起きまくって疲れました……」
私はドッペルゲンガーの妹の頭を撫でながら、これからの生活に不安を覚えた。
呪いのカウントダウンは着実に進んでいる。
それにも関わらず刑部っちの不吉な予言まで
おまけでついてきた。最悪のハッピーセットだ。
まるで私達の憂鬱に呼応するように雨が降りだした。
「……今日はどこかに泊まって明日飛んで帰ろう」
楓子さんが私達にそう提案する。
「はいはいはい!!そしたら温泉行きたいです温泉!!」
と天国美が元気に挙手した。
◆◇◆
私達は香川県のとある温泉宿へと足を運んだ。温泉宿には人がおらず、ほとんど貸し切り状態だ。
「ばっびゅーん!!」
「きゃっほーい!!」
小守と天国美は身体にタオルを巻いただけの姿で、きららジャンプしながら温泉にダイブしようとする。
「……ゴートゥーへル」
私はゴートゥーへルで二人を引き寄せ、そのまま捕まえた。
「何すんだよ地獄子!?」
「何すんだはこっちの台詞よ。温泉にダイブしてんじゃないわよ……」
じたばたする小守をひっつかまえながら私はため息をつく。
「ごめんなさいおねぇちゃん。テンションが上がっちゃってつい……」
私に捕まえられた天国美がしょげた顔をする。
「地獄子ちゃんもすっかりゴートゥーへルを使いこなせるようになったねぇ」
タオル一枚巻いた楓子さんが感心した様子で私に言った。
「ありがとうございます」
楓子さんに褒められ、私ははにかんだ。
日々ゴートゥーへルで部屋中のホコリを掃除して能力の微調整を学んだ甲斐があったというものだ。
それにしても、やっぱスタイルいいなぁ楓子さん。手足なっが、腰ほっそ。
……いけない、これじゃあ思考が天国美と同レベルじゃないか。
頭を冷やすため温泉のシャワーで頭から冷水を浴びた。
「おねぇちゃんって時々奇行に走りますよねー」
天国美が冷ややかな目で私を見る。余計なお世話よ。
◆◇◆
「はー生き返りますぅー」
肩まで温泉に浸かりながら天国美が言った。
「ここまでずっと飛びっぱなしだったから沁みるぜぇー」
ツインテールをほどいた小守が心地良さそうに伸びをする。
普段の小守と違ってちょっと新鮮かも。
「あ?何見てんだ地獄子?」
「あ、や、別に……」
私は慌てて小守から目を反らす。
「ははーん?さてはようやくオレが美少女だってことに気づいたな?」
そう言って小守が上機嫌に私の背中をバシバシ叩く。痛いんですけど……。
「それにしてもいいお湯だねぇ」
自分の肩にゆったりとお湯をかけながら楓子さんが呟く。
「なーなー後で卓球やろうぜ!!」
「いいですねぇ!!今日こそコテンパンにしてやります!!」
小守と天国美がきゃっきゃとはしゃぐ。
「あんたら元気ね……」
はしゃぐ二人を見守りながら物思いに耽る。
死の刻印の事も、天国美の中に混じった舎蘭の血の事も、天国美の恋人である楓子さんと付き合うことになったことも、私は何一つ答えを出してない。
本当にこのままでいいのだろうか?
何が正解なのか分からなくなる。
「不安かい?」
楓子さんが私の肩に手を添える。
「…..はい」
「私も何が正解なのか時々分からなくなる」
「でも、私達は一人じゃない」
「皆で呪いを乗り越えていこう」
「……はい」
「そーだぜ地獄子!!」
そう言って小守が私に抱きつく。
「あっ!!ずるいですよ小守!!おねぇちゃんには私もついてます!!」
そう言って天国美が私に抱きつく。
「ふふっ、おねーさんも混ざろっかな」
そう言って楓子さんが私たちを包むように抱きしめる。
「ありがとう…….皆」
今日は色んなことが起こった。天国美が拐われたこと。天国美の謎の姿と謎の力。そして狸耳少女の不吉な予言。それでも四人で温泉に入り笑い合えたこと。
この四人でならどんな困難だって乗り越えられる。___私はそう信じたかった。
タイムリミットまであと28日。
コメント
1件
ああ、やっと一息つける温泉シーンにほっとしました。天国美の第二形態には驚きましたが、それ以上に刑部っち(舎蘭の使い魔)の一途な執念が不気味で切なかったです。楓子さんの「一人じゃない」という言葉に、地獄子さんの不安が少し和らいだ感じがして良かった。でも舎蘭の血と28日のタイムリミット──まだまだ油断できない伏線が残ってますね。この四人だからこそ乗り越えてほしいな。
99
comi
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81