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部屋の明かりは落とされ、薄いカーテン越しの街灯だけが、輪郭を描いていた。
「……やめてって言えば、止めると思ってる?」
蓮司の声は低く、柔らかく──けれど底が冷たい。
遥は答えない。
目を伏せたまま、声が喉の奥で絡んでいる。
「いい子にしてれば守ってやる、なんて言わないよ」
蓮司の指先が、遥のシャツの裾をゆっくりとたどる。
「むしろ──全部、バラして壊してみたい」
言葉だけが、皮膚より深く食い込んでくる。
遥の肩がわずかに震えた。
「……なんで、そんなこと……」
「嘘をついたのは、そっちだろ?」
蓮司は笑った。
「俺の“彼氏”なんだろ? 責任、取れよ」
その一言が、遥の胸をえぐる。
──言葉にしたのは、演技のはずだった。
でも、あの瞬間、逃げ場所を作るための嘘は、鎖になった。
自分でかけたはずの鍵が、開かなくなっていた。
「──壊したいなら……壊せばいい」
掠れた声で、遥は言った。
「俺は、どうせ……誰が何をしても、ちゃんと壊れないから」
蓮司は動きを止める。
そして、吐き捨てるように呟いた。
「……そうやって、自分で自分に飽きてくの、楽しい?」
遥は答えなかった。
でも、わかっていた。
蓮司は、どこまでも見透かしてくる。演技も、虚勢も、全部。
なのに、誰よりも遠くにいる。
そして、それを遥は……なぜか、嫌いになれなかった。