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「……で、おまえ、あれ何?」
部屋の鍵を閉める音が背後で鳴った。
蓮司の声には怒りはなかった。ただ淡々と、
「嘘の続きを楽しみにしている」人間の、それだった。
遥は黙っていた。
リュックを床に落とし、壁にもたれて座り込む。
顔を隠すように膝を抱え、唇を噛む。
「“俺の彼氏だよ”──って。さぁ?」
蓮司が笑って歩み寄る。
目の前に立ち、しゃがみ込む。
「俺が言えって言ったか?」
遥は膝から顔を上げなかった。
そのまま静かに言った。
「……言ってない」
「うん、そう。言ってないよね。勝手に、やったんだよね。
俺のこと、“使って”さ」
淡々とした声だった。
けれど、次の瞬間、蓮司の手が遥の顎を強引に持ち上げた。
「“勝手にやったなら、ちゃんと責任とれよ”」
そのまま唇が塞がれた。
乱暴ではない。
ただ、獲物を確かめるような冷たい熱が、遥の口内を舐め回す。
遥は目を閉じた。
逃げられない。
逃げるためについた嘘が、自分の檻になっていた。
「こないださ、“誰が恋人みたいに振る舞ったら信じるか”って、言ったよな」
シャツのボタンを外されながら、蓮司が囁く。
「おまえ、それ自分でやっちゃったんだよ」
ベッドに押し倒された。
脱がされるまでに迷いはない。
遥はすでに“それが罰だ”と思っていた。
「……だから?」
声は小さかった。
なのに、蓮司は満足そうに笑った。
「だから、罰ゲームは俺が決める」
その瞬間、指が遥の脚を乱暴にかき分けた。
呼吸が乱れる。
蓮司は何の感情も浮かべず、ただ機械的に動く。
「“彼氏”って言ったんだよな? ……なら、演技、ちゃんとしろよ。
泣いたり震えたりするな。そういうの、嘘くさいから」
遥は首を横に振った。
けれど、その拒絶も弱い。
「……俺、バカなのかも」
震える声で、遥は言った。
「……本当に、そう思った。おまえのこと、“信じさせたい”って……。
……でも、日下部、あんな顔してたから──」
「だから、使ったんだ? 俺を」
遥は答えなかった。
答えられる言葉を、もう持っていなかった。
蓮司は、遥の髪をかき上げ、耳元で囁いた。
「……もっと、壊してやるよ。おまえの“本気”なんて、俺が全部、嘘にしてやる」
そのまま、遥の身体に噛みつくような音が響いた。
甘さも優しさも一切ない。
これは、“恋人ごっこ”じゃない。
──ただの「見世物」。
自分自身に対しての。
遥は、目を閉じたまま、耐えていた。
だが、その“耐え”すら、
蓮司にとっては、一番面白い“反応”なのだと知っている。