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さぶた@気分屋
101
蒼真は、髪を切ってから少しだけ楽になった。
鏡を見るたびに思っていた。
これで、前とは違う。
そう思いたかった。
けれど。
学校へ行けば、何も変わっていなかった。
「蒼真」
教室に入ったところで呼ばれる。
振り返る。
男子が二人、笑っている。
「髪切ったの?」
「うん」
「前の方が面白かったのに」
「……そう?」
「女みたいだったじゃん」
蒼真は笑わなかった。
「もういいだろ」
「何怒ってんの?」
「怒ってない」
「またそれ」
笑い声。
蒼真は自分の席へ向かった。
鞄を置く。
手が少し震えている。
机の下で握りしめた。
昼休み。
紬がやってくる。
「蒼真」
「ん?」
「今日、帰りどうする?」
「先帰っていいよ」
「何で?」
「ちょっと残る」
「先生?」
「うん」
紬は疑わなかった。
「じゃあ先帰る」
「うん」
紬が離れていく。
蒼真は、その背中を見送った。
よかった。
何も気づいていない。
それだけで安心した。
放課後。
教室から出ようとしたところで、呼び止められた。
「蒼真」
足が止まる。
「……何」
「こっち来て」
「嫌だ」
「別に何もしないって」
その言葉が、かえって怖かった。
蒼真は動かなかった。
「帰るから」
「つれないな」
笑い声。
腕を掴まれる。
「離して」
「いいから」
蒼真は振りほどこうとした。
けれど、うまくいかなかった。
その先のことを、蒼真は誰にも話さなかった。
翌朝。
制服を着る。
鏡を見る。
いつもと同じ顔。
なのに、自分の身体が自分のものではないような感覚が残っている。
昨日のことを思い出すだけで、息が浅くなる。
蒼真は目を閉じた。
大丈夫。
学校へ行くだけ。
いつも通りにするだけ。
それならできる。
教室。
紬が笑いながら近づいてくる。
「蒼真、おはよう」
「おはよう」
「眠そう」
「昨日、遅かったから」
「何してたの?」
「宿題」
嘘だった。
紬は疑わず、
「ちゃんとやってるんだ」
と笑った。
蒼真も笑う。
それでいい。
それでいいんだ。
けれど。
悠生だけは、蒼真の顔を見ていた。
「蒼真」
「何」
「昨日、何してた?」
「宿題」
「本当に?」
「本当」
悠生は何も言わない。
ただ、蒼真の袖口を見る。
少し乱れている。
「……何でもないならいい」
「うん」
蒼真は席に戻る。
悠生はその背中を見つめた。
昼休み。
蒼真は一人で廊下へ出た。
教室にいると、誰かの視線が怖かった。
階段を下りる。
誰もいない場所まで来て、壁に背をつける。
息を吐く。
「……大丈夫」
小さく呟く。
「大丈夫だから」
誰に言っているのか、自分でも分からない。
そのとき。
「蒼真」
声がした。
顔を上げる。
悠生だった。
「……何」
「探した」
「何で」
「昨日から変だから」
「変じゃない」
「変だよ」
悠生が近づく。
蒼真は反射的に一歩下がった。
その動きを見て、悠生が止まる。
「……ごめん」
蒼真は目を逸らす。
「違う」
「何が?」
「悠生が嫌なわけじゃない」
「じゃあ、何?」
答えられない。
悠生はそれ以上近づかなかった。
「話したくないなら、今はいい」
蒼真は黙っている。
「でも」
悠生の声が少しだけ低くなる。
「俺には分かる」
蒼真の指が震える。
「何が」
「お前が、怖がってる」
その言葉を聞いた瞬間。
蒼真は顔を伏せた。
「……怖くない」
「嘘」
「怖くない」
「じゃあ、なんで泣きそうなんだよ」
蒼真は慌てて顔を背ける。
「泣いてない」
「うん」
悠生はそれ以上言わなかった。
ただ、少し離れたところに立っていた。
蒼真が落ち着くまで。
その日の帰り。
悠生は一人で歩いていた。
何度も考える。
昨日、何があった。
蒼真は何を隠している。
そして。
自分はどこまで踏み込んでいいのか。
分からない。
ただ一つだけ。
今までのように「からかわれているだけ」ではない。
それだけは、もう分かっていた。
一方、蒼真は自室で制服を脱いでいた。
鏡を見る。
短い髪。
昔の自分とは違う。
それなのに。
何も変わっていない。
蒼真は鏡から目を逸らした。
そして、机の引き出しを開ける。
そこには、折り畳んだ紙が何枚も入っていた。
最初の頃は、読むたびに傷ついた。
今はもう、読む気にもなれない。
蒼真はそれらを見つめる。
一番上の紙を取り出す。
そして、また引き出しへ戻した。
誰にも言えない。
紬には絶対に知られたくない。
悠生にも。
先生にも。
誰にも。
そう思った。
コメント
1件
ああ、もう…これ、めちゃくちゃ胸に来たわ…。 蒼真の「大丈夫」って呟き、自分に言い聞かせてる感じが痛いほど伝わってきてさ。悠生が「俺には分かる」って踏み込んできたところ、ちょっとホッとしたけど、それでも蒼真はまだ話せないんだよな…。紬には絶対知られたくないって思ってるの、重すぎる。引き出しの紙、何書いてあるんだろう…気になるし、心配になる。 次、どうなっちゃうんだろう。早く続きが読みたい🔥