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 昼休み、教室の隅。机は寄せないまま、なんとなく視界に入る距離で飯を食ってる。
 
 蓮司「なあ、他クラスにさ、日下部のこと好きっぽい女子いなかった?」
 
 日下部「……知らん」
 
 蓮司「お前あれだろ、話しかけられても『あ、うん』しか言わなさそうだもんな」
 
 日下部「話しかけられてない」
 
 蓮司「えっ、でも前さ──」
 
 遥「それ、誰?」
 
 蓮司「え?」
 
 遥「その女子。名前出してみ?」
 
 蓮司「……いや、そこまで知ってるわけじゃないけど?」
 
 遥「ふーん。妄想じゃねーの」
 
 蓮司「妄想って。なんでそんな攻撃的なの、恋バナに対して」
 
 遥「いや別に……。てか恋バナって、何話すの。どこが盛り上がるとこなの」
 
 蓮司「出た。“会話が根本から噛み合わないやつ”」
 
 遥「だって、好きとかってどういう感情なのか、正直よくわかんねーし」
 
 蓮司「ほらな。そっからか」
 
 日下部(口動かしたまま)「……わかる」
 
 蓮司「あー、真面目勢もきた。お前ら二人、“恋”の定義から始めんの?」
 
 遥「“定義”とかじゃなく、なんか……他人の顔とか声とか、そんな大事?
俺、誰の顔見ても変わんねーし」
 
 蓮司「え、それはそれでヤバい気がする。
恋というか、人類への無関心じゃね?」
 
 日下部「……遥、でもさ。
誰かのこと、つい目で追ってたとか……そういうの、ないの?」
 
 遥「……(ちょっと考える)……それって、気配に反応してるだけじゃね?」
 
 蓮司「お前、恋愛感情をセンサーかなんかと勘違いしてない?」
 
 遥「いや、だって“好き”って何かよくわかんない。
その人にどうされたいの? 一緒にいてどうなりたいの? なんで好きになるの?」
 
 日下部「……それ考えすぎると、たぶん一生始まんない」
 
 蓮司「でも俺は嫌いじゃないなー、遥のそういうとこ。
恋バナ向いてなさすぎて、むしろ興味ある」
 
 遥「……やめろ、変な見方すんな」
 
 蓮司「見方は自由。
てか遥、好きな芸能人とかもいないの?」
 
 遥「うーん……“顔が整ってるな”とかは思うけど、それ以上はない。
そもそも、俺のこと誰も好きにならないだろって思ってるし」
 
 日下部「……そんなこと、誰も言ってないだろ」
 
 蓮司「だな。遥、意外と卵焼きもらえる顔してんのに」
 
 遥「それフォローの方向性間違ってない?」
 
 蓮司「間違えてるけど、俺なりの優しさ。チャラい慈善活動」
 
 遥「やめろマジで。
もういい、恋バナ禁止」
 
 日下部「……お前が一番騒いでたぞ」
 
 遥、少しだけ赤くなって黙る。
昼飯は静かに再開されたけど、なんか後味は悪くなかった。