テラーノベル
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フローチェが私邸として使っている屋敷のサロンには、現在、お店を開けるほどドレスや靴を始めとする女性用の小物類が、ずらりと運び込まれている。
そして着替えができるよう部屋の端には衝立があり、そこから淡黄色のドレスを纏った人物がのろのろと姿を現した。
「あらっ、あらあらあらー。似合うっ、似合うわ!素敵!!」
「……さようですか」
女神ことフローチェが目を輝かして真新しいドレスを称賛するが、称賛された側は今にも泣きそうな顔でうつむいている。
その人物とは、レンブラントの部下の肉串が大好きなラルクである。
「もうっ、なんですの? 王都で一番人気のオーガンジー素材を身に付けているのに、その不景気な顔は!!」
「……も、申し訳ありません」
憤慨するフローチェに、ラルクは深く頭を下げる。
しかし彼の顔は、この時間が一刻も早く終わることを祈るような表情を浮かべている。
そんな温度差がある二人を見ながら、ベルはお行儀良く一人掛けのソファに座って気配を殺している。
カードゲームを共に楽しんだ仲間が女装を強要されている姿を見るのは辛いし、きっと彼もこんな姿を自分に見て欲しくないだろう。
ベルがフローチェの屋敷にお世話になって、すでに10日経った。
熱はすっかり下がったし、自ら切りつけた首の傷もすっかり治った。けれど、過保護なフローチェは、未だにベルを病人扱いする。
今だってベルは寝間着に限りなく近い部屋着を着せられ、その上にモコモコのガウンを羽織っている。これらは全て、フローチェからの贈り物である。
(いい人だし、優しい人だし、憧れるところもたくさんあるんだけれど……なんか怖い)
フローチェは過去に結婚していたことがある、いわゆるバツイチ令嬢だ。
そんな彼女は、メオテール国では珍しい女性実業家でもある。
このサロンで足の踏み場もないほど広がっている品々は、すべてフローチェが経営しているショップから取り寄せたもの。
男性に頼ることなく、しっかりと自立した道を歩むフローチェのことをベルは心から尊敬している。
だが、どうしても己に触れるときのフローチェの目が艶かしくて、ドキドキとかソワソワではなく、ゾワゾワしてしまう。
そういう意味で、ベルはフローチェとの距離が縮まれば縮まるほど、どう接していいのかわからなくなってしまうのだ。
コメント
1件
ラルクの女装シーン、思わず笑っちゃいました。ベルが「いい人だけどゾワゾワする」って感じるフローチェの距離感、すごくリアルで面白いです。療養中のベルの複雑な心境も伝わってきて、続きが気になりますね。
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