翌日、仕事を終えた葉月は会社を出て大通りで千尋を待つ。
すると数分後、真っ赤なスポーツカーが葉月の前に停まった。
「お待たせ~」
「お迎えサンキュー! 新しい車来たんだ? かっこいいね」
「うん、先週やっと納車だった~」
「優雅な独身貴族はいいなぁ。なんで同じバツイチでこうも違うかなぁ?」
「フフッ、うちは子供いないからね。でもさぁ、葉月だってお父様から相続したアパートがあるからいいじゃん」
「確かにそうだけど、でも有り余るほどお金がある訳じゃないし。これから高校大学って航太郎の学費もかかるしさー」
「一人っ子だからなんとかなるわよ。あたしの同僚なんて共働きしてても子供が三人もいるからいつもヒーヒー言ってるわ」
「三人もいたら大変だよねー」
車は海沿いを軽快に走り続けた後、行きつけのカフェへ到着した。
海から道路一本隔てた立地のこのカフェは、店内から海が一望出来る。
店に入り窓際の席に座った二人は、メニューを見ながら言った。
「小腹が空いたからパンケーキでも食べようかな?」
「私も食べたい」
「どれにする?」
「うーんと……ブルーベリークリームチーズパンケーキにしよっかな?」
「じゃあ私はレモンカスタードクリームのパンケーキ!」
スタッフに注文をした後、早速二人はお喋りを始めた。
「で、最近どうなの? 中二病思春期真っ只中の航ちゃんは? 相変わらず親子喧嘩してんの?」
「ううん、最近はだいぶ落ち着いたよ。あれは今思えば中学に入って環境が変わった事によるストレスだったのかもね」
「そっか、それなら良かった」
「うん。でもさ、アイツ昨日突然変な事を言い出したのよ」
「変な事って何?」
「それがさぁ、私に合コンでも行って出逢いを探したらって言ったんだよ? で、もしその相手がイケオジだったら自分の父親にしてやってもいいって! もうびっくりしちゃった」
「ハァッ? なんでいきなりそんな事を?」
千尋は驚いている。
「実は夏休みに航太郎がまた長野の友人のお宅にお世話になるの」
「ああ、信濃大町にいる有名な写真家のお宅だったっけ?」
「そう、佐伯さんね。航太郎は佐伯さんの事が大好きなんだよねー」
「そっかー。その佐伯さんっていう人、たしか連れ子がいるバツイチの女性と結婚したんだよね?」
「そう。で、結婚後にもう一人子供が生まれたの。でもね、佐伯さんは血の繋がらない流星君の事を実の子のようにすごく可愛がってるの」
「そっか。航ちゃんはそれを見て羨ましくなったんだ」
「やっぱりそう思う?」
「でしょう? だって少し前まではママべったりだった航ちゃんが、そんな事を言い出すなんてさー。つまりはそういう事でしょう?」
「確かに! 離婚直後は私が少しでも男の人と話すと嫌がってたもんね」
「そうそう。ほら、ガスの給湯器だか何だかを交換してもらった時に、業者の人と話をしてただけで航ちゃんが割って入って来たとかなんとか言ってたよね?」
「そんな事もあったなー。なのに昨日突然そんな事を言い出したからびっくりよ」
「佐伯家を見て、血の繋がらない父親でもアリかなって思えたのかなぁ? それで急に父親が欲しくなったとか?」
「うん、そんな気がする……」
「……まぁそういう事なら、航ちゃんの為に千尋おばちゃんが一肌脱ぎますかー?」
「え? 何?」
「実は取引先で仲良くしてもらっているバツイチの人が、バツイチ合コンをセッティングしてって前からうるさくってさぁ」
「バツイチ合コン?」
「そう。みんなバツイチで、年代も30~40代くらいだって。だから早速セッティングするよ」
「えーっ? 私そういうの苦手~。男女が互いの腹を探り合うなんてロマンがなくてやだなー」
「フフッ、葉月は昔からロマンティストだったからね」
「いやいやロマンティストじゃなくても嫌でしょう? だって出逢いってそうやって無理矢理探すもんじゃないんじゃないし。それにもし運命の赤い糸で結ばれている相手がいたら、時期が来れば自然に出逢えるんじゃないの?」
「甘いっ! 葉月は甘過ぎるっ! そんな映画みたいに現実が上手くいく訳ないじゃん。それに私達にはもう時間がないんだよ? 確かに葉月と啓介(けいすけ)さんの出逢いはロマンティックだったかもしれないけれど、いくらロマンティックでも結局二人の赤い糸は切れちゃったじゃない」
「うっ……何も言い返せない……」
「大体ねぇ、一人旅の途中に空港で運命的な出逢いをするなんてあまりにも出来過ぎなのよ。おまけにその運命の相手がパイロット? 私なんて最初に聞いた時ハァッ? って思ったわ」
「え? そうなの?」
「うん。だってそれって結局職権を乱用したナンパみたいなもんじゃん! それにパイロットなんて浮気者の代名詞みたいなもんだよ? あの時は葉月が妊娠してたから言わなかったけどね。まあ出逢った女をすぐに妊娠させる無計画な男もどうかと思ったけどね」
「くぅっ……更に何も言い返せないっ……」
葉月はガックリと肩を落とした。
葉月の元夫・野村啓介(のむらけいすけ)は現在44歳。
啓介は国内線のパイロットだ。
千尋が言った通り、葉月と啓介は空港で知り合った。葉月に一目惚れをした啓介が半ば強引に連絡先を聞き出し、その後しつこく連絡を取り二人の交際が始まった。
そしてすぐに葉月が妊娠し、二人は結婚する。
そして10年後二人は離婚をした。離婚理由は啓介の浮気だった。
葉月が「ハァーッ」と思いため息をついていると、千尋はバッグから手帳を取り出す。
そしてメモ用紙を何枚か破り、それを更に十枚に切り分ける。
そのメモ用紙を葉月の前に置いてから言った。
「葉月がパートナーに欠かせない条件を、これに一つずつ書いてみて」
「え? 何で?」
「まあ簡単な心理テストかな?」
「心理テスト?」
「そう。葉月が恋人やパートナーに何を一番求めているのか炙り出すの」
「へぇ……そんなのがあるんだ」
「うん」
そこで千尋が葉月にペンを渡す。
ペンを持った葉月は真剣に考え始める。
「うーん、どんな事を書けばいいの?」
「なんでもいいのよ。『ハンサムな人』とか『お金持ち』とか『優しい人』とか?」
千尋のヒントを聞いて、葉月の頭に閃いたのはこんな事だった。
(航太郎を実の子のように愛してくれる人)
その時、勘のいい千尋が言った。
「航ちゃんの事はナシでね。それはもう既に必須条件だから。それ以外で、パートナーとして向き合った時に欠かせないものだけを書いてよ」
出鼻をくじかれた葉月は、千尋に聞いた。
「ちなみに千尋はどんな事を書いたの?」
「私は『お金持ちの人』『ケチじゃない人』『体型はマッチョ』『イケメン』『頼りがいのある人』『セックスが上手い人』『仕事に誇りを持ってる人』『周りから慕われている人』あとは~….あっ、『実家が面倒臭くない人』『年をとってもラブラブでいられる人』だったかな?」
スラスラ答える千尋を見て、葉月は尊敬の念に駆られる。
(は~、さすが千尋、自分の事よくわかってる)
感心したように頷くと、葉月も思いつくままつらつらと書き始めた。
葉月が書いたのはこんな事だった。
①性格が穏やかな人
②経済観念がしっかりしている人
③年相応にお金を持っている人
④仕事が好きな人
⑤海が好きな人
⑥自信に溢れ堂々としている人
⑦端正な顔立ち
⑧体型は少しガッチリタイプ
⑨知性がある人
⑩どんな時でもきちんと向き合い話をしてくれる人
葉月は全て書き込んでから、
「書いたよ」
と千尋に言った。
その時、パンケーキが運ばれて来たので、二人は話を一時中断した。
コメント
93件
パートナーに求める条件、葉月さんと 千尋さん.... それぞれ個性が出て、面白い🤭💕 二人とも、素敵なお相手が現れると良いね💝
千尋さん、真っ赤なスポーツカー🏎️なんて かっこいい😎 葉月さんの周りは素敵なお友達多いのね😊 ところで、パートナーに求める10の条件。 若い時によ〜く考えておけば良かった🤣 葉月さん、バツイチ合コンにいくのかなあ。 早く素敵な出逢いを💓
葉月さんの条件の心理テストの結果 早くみてみたい 明日の更新が待ちきれないです