コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌日。天馬は大学に行くと、すぐさま昨日の出来事を小学生の頃から付き合いのある友人「鳥丸崇矢」に話した。
しかし崇矢の反応は意外なものだった。
深夜に自宅に届けに行くなど常識がなっていない。そういう反応だった。
自分がその女の立場だったらまず、そのまま自宅に行かず警察に届けに行く。
そもそもは、そういった行動は、事件発生の可能性がある為
自ら自宅へ届けに行くという危険な行動を取らずに、警察へ届けに行くようになっているのだ。
「天馬、お前だって思ったんじゃね?
深夜に女が一人なんて危ないってさ!」
「そりゃ、そうだけど・・・」
さらに崇矢はこう続けた。
普通の人であってくれ!包丁を持った暴漢とかじゃありませんように!
などという恐怖心が少なからずあったのなら無闇にドアを開けるのではなく
チェーンをするべきだったのではないか?危機管理能力があまりにも低すぎると。
そんな崇矢の指摘に天馬は
「まったく頭に無かったよ」と照れくさそうに頭を掻きながら俯き気に答える。
「それと、その女・・・気をつけた方がいいかもしれねぇぞ?」
「え?どういう意味?」
崇矢は、財布を届けに来た女が天馬の免許証を見たという事は、天馬の名前や生年月日
年齢から住所まで、ありとあらゆる個人情報を知られてしまっている可能性があるのではないか?と危惧していた。
ストーカーなどになられたら後が怖いからだ。
「考えすぎじゃないかな?」
「考えろよ!つーか天馬!お前はその女の名前・・知ってんのか?」
「いや・・名乗らなかったから・・」
「なら尚の事考えろよ!名前も知らない奴がお前の個人情報知ってんだぞ?普通に考えたらやばい状況だろ?」
考えすぎだという天馬に対し、崇矢はそのくらいの危機感は持っておけ。
慎重になるに越した事はないのだからと釘を指す。最後に何かあったら連絡しろ。
力を貸すくらいはしてやると付け加えた。そんな崇矢の忠告に対し
天馬は何かあったらお願いするかもしれないと返し、大学を後にした。
学校帰りの天馬は、崇矢の忠告のせいで不安に苛まれていた。
偏執狂などとは無縁な人生を歩むとばかりか思っていた天馬にとって
それが身近になりつつあるというこの状況は恐怖でしかなかった。
「もぅ!崇矢があんな事言うから余計な不安抱える事になったじゃんか!」
しかし考えたところで現状が変わる訳でない。
半ば諦め気味で、ふらって立ち寄ったスーパーの惣菜コーナーで弁当を物色していた。
しかし、まだ時間的に半額になっている時間では無かったようで
1割引にしかなっていなかった。
「まだ1割かぁ・・・
1割じゃなびかないなぁ・・・
せめて3割なら・・・・」
色々悩んだ結果、もうしばらくウロウロしたのちに再び惣菜コーナーを訪れ
安くなっていたら買おうと考え、その場を立ち去ろうとした瞬間
背後から、自分の名前を呼ぶ女性の声が聞こえ、振り返るとそこには、昨日自宅に財布を届けに来た女性が立っていた。
その女性を見た瞬間、天馬の頭の中では崇矢からの忠告がフラッシュバックしていた。
(まさか・・・本当に?)
天馬は頭の中が真っ白になっていた。
おそらく同時に顔面も蒼白になって居たのだろう。
女性から顔色が悪いが具合でも悪いのか?と問われたが、天馬はその問いかけに
「いや、そんな事は・・・」としどろもどろな対応をするのがやっとだった。
それもそのはずだ。
崇矢からストーカーなどという言葉を聞かされ、もう会う事はないと思っていた女性と、こうして偶然出会ってしまったのだから。
言葉を発せずに俯いている天馬に女性は
「私のこと覚えてますか?」と問いかけた。
天馬はもちろん覚えてますよ!と口を開きたかったが、あまりの恐怖に言葉が出てこない。
いつまでも覚えていると言ってくれない天馬。
そんな天馬に若干の苛立ちを感じているのだろうか、先ほどまで笑顔だった女性の表情が
徐々に笑顔から真顔に変わっていく。
ここですぐに覚えていると伝えなければ、もしかしたら奇声を発して暴れられたりするかもしれない。
ドラマやニュース、漫画でよくある話だ。
さらに天馬の頭の中では、女性に殺され
「財布をわざわざ届けに行ったのに私のことを覚えていなかったから、カッとなって殺した」とニュースで報道される映像が浮かび上がっていた。
考えすぎだと人は馬鹿にするだろうが、天馬はそれほどに恐怖していた。
そんな事態は避けたい。天馬は必死に掠れた声で
「も、もちろん覚えてますよ
昨日財布を届けに来てくれた方ですよね?
忘れる訳ないですよ
その節は本当にお世話になりました」
いささか丁寧過ぎかとも思った天馬であったが、これで覚えているというのは伝わったはずだ。
天馬は恐る恐るお辞儀をしている頭をあげて、女性の表情を確認する。
すると、先ほどまで真顔だった女性の表情とはうってわかって満面の笑みだった。
「よかったぁ♫
忘れたなんて言われたらどうしようかとおもいましたよ
覚えていてくれて嬉しいです♫」
忘れたなんて言われたという女性の言葉に一抹の不安を感じた天馬だったが
笑顔になってくれただけ良しとしようと天馬は心の底から安堵した。
「そう言えば自己紹介がまだでしたね」
女性は満面の笑みで自分の名前を語り出した。
「私の名前は「柊美琴」天馬くんと同じ20歳です♫
気軽に美琴って呼んでくださいね♫」
天馬くんと同じ20歳ですという美琴の言葉はさらに天馬を恐怖のどん底に叩き落とした。
ただの20歳!ではなく、天馬と同じ!とわざわざ付け加えるという事は
免許証を見た際に年齢を覚えていたという事になる。
ようは名前もすでに把握しているという事だ。
これならば、住所まで控えられている可能性はおおいにある。
崇矢の話もあながち、ただの取り越し苦労では無いのかもしれない。そんな恐怖が天馬を蝕んでいた。
そんな天馬の不安などお構いなしといった様子で美琴は語り掛ける。
「天馬くんは夕飯の買い出しか何かですか?」
「はい・・・そうなんですよ」
「そうなんですね♫私もなんです」
「こんな偶然もあるんですね。あはは」天馬は、はにかんだ顔で答える。
すると美琴は一呼吸おいて
「本当に偶然だと思いますか?」とつぶやく。
「え・・・」天馬は予想外の美琴の発言に言葉を失う。
天馬が黙っていると美琴が
「天馬くんの事を待ってたって言ったらどうします?」と畳み掛けるように言葉をつなげた。
待っていた?もしかしたら本当にストーキングされていたのか?
そんな恐怖で目の前が真っ暗になる感覚に苛まれる。
すると美琴は
「なんてね♫冗談ですよ♫本当にただの偶然です♫
もぅ、そんな泣きそうな顔しないで♫ね?」
そんな冗談笑える訳ないだろ!と文句を言いたかった天馬であったが
そんな事を言えば何をされるかわかったものでないた為
「あはは・・・」と笑って誤魔化す事しか出来なかった。