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#勧善懲悪
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からくり人形の片目が外れたままなのが、どうにも気になった。サペはその日の夕方、工房の作業机に人形を寝かせ、胸のねじや関節のゆるみをもう一度確かめていた。
机のまわりには、ズジ、マイナ、エリア、そして呼ばれたジュレイまでそろっている。
「法律の人まで来る必要あった?」
エリアが言う。
「法は赤い石を見ても黙っていません」
ジュレイは平然と返した。
「あと、好奇心です」
工房の扉が開き、テオファイルが一人の老人を連れて入ってきた。
「紹介するよ。牧瀬さん。昔、石材と装飾品を扱っていた」
老人はサペの机の上の人形を見るなり、目を細めた。
「懐かしいもんがいるね」
サペは布に包んであった小石を差し出した。ンドレスの部屋にあったそれと同じものかはまだ分からない。ただ、人形の目に入りそうな大きさの赤い石は、工房の古い道具箱からも一つ見つかっていた。
老人は石を光へかざした。
赤茶の筋が猫の目みたいにすっと走る。
「レッドタイガーアイだ」
その場の空気が、わずかに張る。
「高い石?」
ピットマンが聞くと、老人は首を振った。
「値段の話だけなら、もっと上はいくらでもある。けどこれはね、昔この町じゃ、真贋を見分ける印に使われてた」
マイナが身を乗り出す。
「真贋?」
「相談を受けた先が本当に信じられる相手かどうか、その紹介札に小さく石を埋めてね。偽物が出回らないようにしたんだよ」
テオファイルが補足する。
「昔の善意の名刺だね」
サペは黒い名刺を取り出した。つやのない黒。冷たい文字。
老人はそれを見るなり、露骨に顔をしかめる。
「これは逆だ。光を隠してる」
その言い方が妙に腑へ落ちた。
レッドタイガーアイは、真実を確かめる印だった。なのに黒い名刺には石がない。代わりに悪魔の横顔がある。
「片目のない人形に、片方だけ石が使われてた理由は?」
サペが聞く。
老人は、工房の灯りの下で人形の顔を見つめた。
「舞台の仕掛けだよ。暗い客席でも、光の入り方で目が生きてるように見える。片目にだけ入れることで、向きによって表情が変わる」
エリアが小さく息をのんだ。
「あの舞台、そんな細かいことまで」
サペの胸に、台本の一文が蘇る。
目を戻せ。光はそこに宿る。
ただの部品ではない。物語そのものに関わる目だ。
その時、マイナが黒い名刺の裏を爪でなぞって言った。
「これ、紙が二層になってる」
剥がすと、内側にうすく、何かを埋めた跡のようなへこみがあった。
「昔はここに石を入れてたのかも」
ズジがつぶやく。
光を入れていた場所に、今は空洞だけが残っている。
サペは、片目の外れた人形と黒い名刺を並べて見た。
どちらも、誰かがわざと欠けさせたものだった。