テラーノベル
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相談室。
日下部が机の上のプリントをまとめている。
ドアが開く。
「失礼します」
「どうぞ」
相談者が入ってきて、椅子に座る。
「……夏休み、終わりますよね」
「終わるな」
「それだけで、もう嫌なんです」
日下部は相談者を見る。
「学校が嫌?」
「学校そのものっていうより……戻るのが嫌です」
「戻る?」
「夏休みの間は、朝起きて、今日は何しようって自分で決められたんです」
少し間。
「でも学校が始まったら、また同じ教室に行って、同じ人たちといて、同じようにしなきゃいけない」
「うん」
「それを考えるだけで、息苦しくなるんです」
日下部は急かさない。
「夏休み中は、少し楽だった?」
「……はい」
「じゃあ、学校に戻るのが怖いんだな」
相談者は頷く。
「みんなは『宿題終わった?』とか『早く学校行きたい』とか言ってるのに。俺だけ、戻りたくないって思ってる。だから」
少し俯く。
「俺がおかしいのかなって」
日下部は首を振る。
「おかしいとは思わない」
「でも、学校ってみんな行くものじゃないですか」
「みんな行く」
「はい」
「だからって」
少し間。
「みんなが平気とは限らない」
相談者は黙る。
「夏休みってさ」
日下部が言う。
「学校から離れる時間があるだろ」
「はい」
「そこで少し息ができてたなら。戻る時に苦しくなるのは、変じゃない」
「……息ができてた」
相談者が小さく呟く。
「それかもしれないです」
「だったら」
日下部は続ける。
「始業式の日を、一か月分まとめて考えなくていい」
「一か月?」
「『また毎日これが続く』って考えると重いだろ」
「はい」
「まず朝起きる。学校に着く。一時間目を受ける」
相談者は黙って聞く。
「その先は、その時考えればいい」
「……一日全部を耐えようとしなくていい?」
「うん」
「でも、どうしても無理だったら?」
日下部は少し間を置く。
「一人で抱えない。親でも、担任でも、保健室でも、相談室でもいい。『学校に行きたくない』だけじゃなくて」
少し間。
「『学校が始まることを考えると苦しい』って、そのまま言えばいい」
相談者は俯いたまま頷く。
#一次創作
ruruha
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#相談部屋
「それなら言えるかもしれません」
「あと」
日下部が言う。
「夏休み中に楽だった時間があったなら。それはちゃんと覚えとけ。学校以外にも、自分が少し楽になれる場所や時間があるってことだから」
相談者は少し顔を上げる。
「学校が始まったら、全部なくなると思ってました」
「全部じゃない」
「……はい」
相談者が立ち上がる。
「始業式の日のことだけ考えます」
「それでいい」
「明日のことまで考えると?」
「明日の自分に任せろ」
相談者が少し笑う。
「……明日の俺、ちゃんとやってくれますかね」
「知らん」
「そこは保証してくださいよ」
日下部が少し笑う。
「明日の自分に期待しとけ」
ドアが閉まる。
夏休みの終わりが怖いのは、学校に行きたくないという一言だけでは片づけられない。
休みの間に少しだけ取り戻せた安心が、また失われるように感じることもある。
だからこそ、「始まってしまったら全部耐えなきゃ」ではなく、まず今日一日をどう過ごすか。
そして苦しい時には、一人で抱えず誰かに伝える。
それだけでも、少し違うかもしれない。
コメント
1件
第30話、読み終えました。 「学校に戻るのが怖い」って気持ち、すごくわかるなあって思いました。夏休みの間に少しだけ息ができてた分、戻るのが余計に苦しくなる……その感覚、すごく丁寧に描かれてて、胸にきました。 特に「明日の自分に任せろ」って台詞が、優しくて、でも突き放しすぎなくて、じんわりしました。全部を抱えなくていいんだ、って思える場面でした。 ruruhaさんの描くこういう“静かな寄り添い”が、本当に好きです。ありがとうございます🌙