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放課後。
空き教室。
日下部は机にプリントを何枚か並べていた。
ドアが開く。
「お疲れ」
「お疲れ」
相談者が入ってくる。
机を見る。
「多いですね」
「現実」
「見ない方がいいやつですね」
「見ても減らない」
相談者が笑って席に座る。
「今日は?」
相談者は少し考えてから話し始めた。
「俺、人に頼まれると断れないんです。時間なくても、『いいよ』って言っちゃうし、困ってそうだと放っておけなくて」
少し間を置く。
「でも、逆に俺が困ってる時は、誰にも頼れないんです」
日下部は静かに聞いている。
「何で頼れない?」
相談者は苦笑する。
「迷惑かけたくないからです。断られたら嫌だし『そのくらい自分でやれば』って思われそうで」
教室が静かになる。
日下部は少し考えた。
「お前、頼まれた時はどう思う」
「できるなら手伝おうって」
「迷惑?」
「思わないです」
「じゃあ」
少し間。
「何で相手は迷惑だと思う」
相談者は止まる。
「……」
答えが出ない。
日下部は続ける。
「頼る側になった瞬間だけ急に相手を信用しなくなるんだな」
相談者は顔を上げる。
「え」
「自分が頼まれたら助ける。でも相手は助けてくれないと思ってる」
短く言う。
「結構失礼だぞ」
相談者は思わず笑った。
「そんなつもりじゃないです」
「分かってる」
日下部も少し笑う。
「でも」
少し間。
「そういうことになる」
相談者は黙る。
「俺、頼るのって」
少し考える。
「弱い人がすることだと思ってました」
日下部は首を横に振る。
「違う。頼るって」
少し間。
「相手に『お前なら頼っても大丈夫』って任せることでもある」
相談者は静かに聞いている。
「信頼されると嬉しい時ないか」
相談者は頷く。
「あります」
#暗い過去
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「じゃあ」
日下部は言う。
「お前はその機会を」
少し笑う。
「全部奪ってる」
相談者は吹き出した。
「言い方」
「本当だろ」
二人とも笑う。
しばらく静かな時間が流れる。
相談者は小さく頷いた。
「俺、頼ることばっかり考えてました」
少し間。
「頼られる側の気持ちは考えてなかったです」
「人って」
日下部は言う。
「助けてもらうだけじゃなくて助けることで嬉しくなる時もある」
相談者は静かに笑った。
「じゃあ、今度は少しくらい頼ってみます」
「全部じゃなくていい」
日下部は頷く。
「消しゴム貸して、くらいからでも」
相談者は笑う。
「そこからですか」
「そこから」
ドアが閉まる。
人に頼られると嬉しいと思うのに、自分は頼れない。
そんな時は、「迷惑をかけること」ばかり考えて、「頼られる嬉しさ」を忘れているのかもしれない。
コメント
1件
読み終えて、日下部さんの「その機会を全部奪ってる」が刺さりました。頼られる嬉しさを自分にだけ適用しない、その論理の反転が鮮やかで。「消しゴム貸して、くらいから」という小さな一歩にほっとしました。依存と信頼の違いを静かに描いた回、好きです。