テラーノベル
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旅立ちは驚くほどあっさりしていた。
壮行式のようなものがあるのかと思っていたが、実際には神殿の裏門から送り出されただけだった。
老人神官が言ったのは一言だけだった。
「勇者よ、健闘を祈る」
陽和が頭を下げると、門は閉まった。
それで終わりだった。
少し拍子抜けしたまま、四人は街道を歩き始めた。
先頭を歩くのはレオルだった。
背筋を伸ばし、周囲を警戒しながら進む姿は頼もしい。
その少し後ろを陽和が歩く。
さらに後ろにミナとフィルが続いていた。
しばらく進んだところで、ミナが言った。
「寒くない?」
空気は確かに少し冷えていた。
夕方が近い。
陽和は言った。
「たぶん暖かくなってると思います」
ミナが腕をさすった。
「……ああ」
少し間があった。
「確かに」
前を歩いていたレオルも振り向いた。
「勇者様」
「はい」
「少し近づいていただけますか」
理由は分かる。
陽和は前に出た。
レオルの横に並ぶ。
レオルはうなずいた。
「助かります」
何か違う気がした。
さらに歩いた。
しばらくしてフィルが言った。
「勇者様!」
振り向く。
フィルは少し離れていた。
「もう少しこちらへ!」
陽和は戻る。
フィルの近くに行く。
フィルは安心した顔をした。
「暖かいです!」
その間にレオルが前に行く。
しばらくして言った。
「少し冷えます」
陽和は止まった。
三人を見る。
考える。
「これ」
言った。
「全員同じ距離にいた方がいいですよね」
ミナがうなずいた。
「そうね」
フィルもうなずいた。
「理想的です!」
レオルも言った。
「合理的です」
三人とも賛成だった。
陽和は言った。
「じゃあ並びましょう」
四人で円を作るように立つ。
少し近い。
レオルが言った。
「暖かい」
フィルが言った。
「祝福が満ちています!」
ミナが言った。
「普通に快適」
評価はばらばらだったが、結果は良かった。
それから四人は、ほぼ同じ形で歩いた。
街道を進む四人の隊列は奇妙だった。
レオルが先頭ではない。
誰も先頭に立たない。
ほぼ横並びだった。
通りすがりの商人が振り返って見ていた。
気にしないことにした。
日が沈むころ、野営場所を決めた。
街道から少し外れた平地だった。
レオルが薪を集め、フィルが火を起こす。
ミナは石に座ったまま動かない。
陽和は特にやることがなかった。
しばらくして焚き火ができた。
四人が座る。
最初は普通の形だった。
焚き火を囲むように座る。
しばらくしてフィルが言った。
「勇者様」
「はい」
「少しこちらへ」
移動する。
フィルの近くに座る。
フィルがうなずく。
「暖かいです」
するとレオルが言った。
「こちらも少し冷えます」
移動する。
ミナが言った。
「動かないで」
止まる。
ミナは少し考えてから言った。
「配置を決めましょう」
大げさだった。
だが必要そうだった。
ミナは地面に枝で線を引いた。
円を描く。
真ん中に印をつける。
「ここ」
陽和を見る。
「勇者」
予想通りだった。
レオルがうなずいた。
「最適配置です」
フィルも言った。
「完璧です!」
陽和は言った。
「固定ですか」
ミナは言った。
「動くと寒くなる」
正論だった。
陽和は真ん中に座った。
三人が周囲に座る。
しばらく沈黙が続いた。
焚き火が燃える音だけが聞こえる。
レオルが言った。
「理想的です」
フィルが言った。
「祝福を感じます」
ミナが言った。
「効率いい」
全員満足していた。
陽和は言った。
「これ」
三人を見る。
「俺がいなくなったらどうするんですか」
三人は少し黙った。
先に答えたのはレオルだった。
「勇者様がいなくなることはありません」
断言だった。
フィルも言った。
「祝福は共にあります!」
根拠はなさそうだった。
ミナだけが言った。
「寒いでしょうね」
現実的だった。
その夜、交代で見張りをした。
陽和の番はなかった。
理由は単純だった。
勇者が動くと寒くなるからだった。
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